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第十五話 オーギュット

「貴族とは、民を愛し、守る者だ。それが貴族の務め。だが、ユフィエル=キキリュク嬢。あなたはどうだ」

オーギュットが、大勢の人たちが緊張して成り行きを見守る中で、婚約者様に向かって何かを告げていた。

単なる会話の様子では無かった。

婚約者ユフィエルの顔は酷く白く、表情が無い。じっとオーギュットを見つめていた。茫然としている様子だ。


「地位を利用して、大勢を動かし、随分非道な事を。・・・特定の女生徒の器物を破損し、集団で陰口と不満を聞かせて精神的にも追い詰める。博愛精神を欠いたどころでは無い。あなたは自分の立場にあぐらをかいて、弱き者の気持ちに鈍感なご様子だ。国を支える人間としての器量を疑わざるを得ない」


オーギュットの言葉は力強い。

罪を知らせる質の声。確かに、オーギュットは人の上に立つ王家の人なのだ。


イセリを連れてきた男子生徒がオーギュットに軽く頭を垂れる。

オーギュットがイセリの到着に気づき、男子生徒に軽く頷いてから、イセリに向かって、少しだけ安心させるように表情を緩めた。

イセリの胸がドキリと跳ねた。


「こちらに」

オーギュットがイセリを呼ぶ。戸惑いながらも、場の雰囲気もあって、イセリは従った。

「イセリ=オーディオ嬢。あなたは、随分と辛い目にあっている。耐えてきたのを、私は知っている」

「・・・オーギュット・・・」

本人にしか聞こえない小さな声で、イセリは不安のままに呼んだ。

彼はどうするつもりだろう。

イセリのためになる事を、オーギュットがしてくれるつもりだとだけは、分かる。

オーギュットはそんなイセリを暖かい眼差しで見つめて、また目線をユフィエル嬢に戻した。


「・・・無言を貫くつもりか? ・・・具体的に私が知らないとでも? あなたは、このイセリ=オーディオ嬢の所持品を、毎日のように壊した。そう指示を出しただろう。使い物にならないと交換された書物は100冊を超えている。これは学校の記録に残されている。書物だけに限らない。支給品だけではなく、彼女個人のものもだ。貴族は他人の所持品を勝手に破壊しても構わないなどと、そんな教育を受けているのか? そんな人だとは思わなかった」

オーギュットの言葉が鋭くなっていく。

イセリは、対するユフィエルの様子をじっと見た。

耐えるようにして、けれど何も言い返さない。言い返すことができないのだろうか。


もっと、言って。イセリはオーギュットにそう思った。

もっと、言って。

壊されたのは、ものだけじゃない。心まで壊れていく。冷たい言葉も、投げつけられ続けた。侮蔑の眼差しで見られ続けた。


ねぇ、あなたは、そんなに偉いの?

あなたが、オーギュットの心を、掴んでいられなかっただけなのに。


内に秘めていた怒りで、イセリの身体が小刻みに震える。

婚約者の行いを非難しているオーギュットは、イセリの様子に気がついて、言葉の途中で心配そうにイセリを見た。

それから、声をきつくして、婚約者に向く。

「・・・ユフィエル嬢。体調を崩し、学校に来なかったことも知っている。けれど嫌がらせが止むことはない。そのように仕向けた。・・・周囲の動きなど、分かっていただろう。軽蔑する。・・・婚約者がこんな冷酷で卑怯な人だったとは。家柄だけが良くても、到底受け入れられない。婚約者としてはなおさらだ。王家の一員として、模範となるような人柄が求められるのだから」


婚約者ユフィエルの唇がわななくように動き、しかしキュと結ばれる。

どうあっても無言を押し通すつもりらしい。

何も言わないのは、罪を認めたくないからだ。


お姫様の態度は頑なだった。しかし、余裕はなさそうだ。

周囲の取り巻きも、オーギュットが下げさせたのか、少しだけ離れたところで立っていて、同じように顔色を酷く失ってる。俯いているものもいる。彼女たちも色々動いたからに他ならない。


オーギュットは、何も話さない婚約者に苛立ちをさらに募らせた。

「婚約は白紙だ。私は、ユフィエル=キキリュク嬢との縁を切る。あなたが悪い。品性を欠く行動の結果だ。・・・本当に、失望した」


ユフィエルの身体が細かく震えた。


良い気味だと、イセリは思った。人にこんな気持ちを抱くなんて。でも、抱いて当然だ。

行いが、やっと本人に跳ね返ったのだ。


私は、あの人が大嫌い。

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