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第十四話 まわり

どうして私だけが、責められるのだろう。あの人だって、私を、オーギュットを、不幸にしている。

オーギュットの心は、完全にあの人から離れているのに。オーギュットを縛り付けているのに。


悔しい。


それでも、なんとかイセリは辛うじて頭を軽く下げ、足早にそこを去った。

「なんて無作法」

後ろの声を振り払うように、逃げるように去る。


悔しい、辛い。酷い。


どうしよう。


***


翌日。憂鬱だけれど、イセリは必死に己を奮い立たせる。

オーギュットがこちらに向かってくるのを見つけると、足早に去る。

貴族様たちには一礼をする。


冷ややかな空気に、耐える。


持ち物が壊されたりしないように、できる限り、荷物はいつも持ち運び、胸に抱える。


三時間目の授業が終わった時だった。

「・・・どう、したの?」

そっと控えめに、目立たないように声がかけられた。

入学当初、仲の良かった、平民仲間のアンヌちゃんだった。

注目を集めないように周囲に気をはらいながら、それでもイセリの傍に近寄っていた。

「どうしたの・・・?」

アンヌちゃんは、不安そうな表情をしていた。

イセリの様子がおかしいと気づいて、原因を確かめにきたのだろう。


久しぶりの会話に、イセリはボゥっとアンヌちゃんを見ていた。

そしてふと気づけば、教室は静まり、アンヌちゃんと自分の様子に耳をそばだてていると知った。

あからさまにこちらを見ている者もいるし、こちらを見ないようにしながら、黙って注意を向けている者もいるようだった。


イセリは、緊張した。

唾を飲みこんだ。

「あ・・・」

一声上げただけで、どっと感情が競りあがってきて、涙ぐみそうになった。

顔に血が昇るのを感じながら、イセリは、一生懸命、誠実になるように、答えた。

「あ、の、私」

どういえば良いのか。

私は。

「私、」

何を言っても泣きそうになるので言葉を選びイセリは話そうとする。

それをアンヌちゃんが、酷く不安そうに、待っている。

言葉にできなくて、イセリは俯いてしまった。


「大丈夫・・・?」

アンヌちゃんが、控えめに心配の声をかけてきた。

イセリは首を横に数度振ってから、途中で、何度も頷いた。


「・・・オーギュット様と、別れた、とか」

静かな教室にもなじむ、心地の良い質の声がポツリと放たれた。

不思議な事に皆を落ち着かせるような声だった。

エネリくんだった。


ギュッとイセリは俯いている。


アンヌちゃんはじっと黙っていた。

しばらくじっと黙っていて、それから、アンヌちゃんは嫌悪したように、小さくイセリに言った。

「馬鹿」


その言葉はイセリの心に突き刺さった。

なのに、イセリは少し慰められた気分になった。悔しかったけど、どうして嬉しくも思うのだろう。


アンヌちゃんは離れていき、教室には普段のざわめきが戻ってきた。


・・・いつか、元に戻れるだろうか。

何も、無かったかのように。


そう思ってから、イセリの体がブルリと震えた。拒否反応だと、分かった。


何も無かったかのようになんて、とても無理。こんなに好きになった事はないのだから。


***


昼休み。

今日は無事だったお弁当を、暖かい光の差す庭園の一角で食べ終わったイセリが教室に戻った時だった。

「イセリ=オーディオ嬢。探していた。オーギュット様がお呼びだ。早くついて来い」

あまり見た事のない、けれどオーギュットの傍で何度か見たことがある気のする男子生徒が、イセリを探していた。

オーギュットの名前に、イセリはどうしていいのか立ちすくむ。

男子生徒は年齢に似合わない厳しい顔でイセリを見た。

「何度も言わせるな。・・・お前のためにオーギュット様が動かれるのだ。立ち会え」

「え・・・?」


男子生徒の声に少し苛立ちが混じった。

「・・・お前の、ために、オーギュット様が、動かれるのだ!」

「・・・でも」


イセリの様子に、男子生徒が一歩、イセリを責めるように近づいた。

「まだ万全で無いのに・・・。お前が・・・! ・・・お前には義務がある。来い」

身分の差を感じる強い口調とプレッシャー。

そして、オーギュットの名前。

動揺しながら、イセリは頷いた。

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