荘厳なる少女マグロ と 運動会
"?":
「無理じゃない!」
繰り返される――否定の言葉。
"?":
「なんで
<無理>
なんて
思うのさ?
――ボクの計算では…」
"マグロ":
「――ねぇ……
練習しなくて
イイの?」
"マグロ" は
話を
遮り――
変えた。
どう話せば良いのか、
わからなかった。
目の前にいる――
今迄
ずっと
教育者によって
否定され続けてきた事を
否定する
子供。
見知らぬ子供。
初めて会った
――会ったばかりの
他人。
「敵」
を意味する
<エトワール>
を
襟に付けた
子供。
<真面目>
と
<一途>
と
共にある。
悪意は無さそうだ
と思う。
繰り広げられる、
尤もらしいが、
信じられない
話。
"マグロ" は
ただ
戸惑っていた。
―――――――――――――――――――――――――
"マグロ" は
"コーチ" の言葉を
信じていた。
ずっと――
《"コーチ" は
自分 ["マグロ"] の為に、
怒ってくれている》
《自分の為に
叱ってくれてる》
"マグロ" の為を思っての
アドバイス
――そう信じてきた。
その時も――信じていた。
それでも………――
―――――――――――――――――――――――――
"コーチ":
『あんたには無理!!』
―――――――――――――――――――――――――
"マグロ" は
先程から
――口頭で
数字を並べながら
話し続ける
<異質な子供>
を
――再び
見た。
"マグロ":
「……そろそろ練習した方が
イイんじゃない…?」
"?":
「ボク?」
”重力スケート選手”
がよく着る運動着
を着た
その子供は、
人差し指の先で、
自身を指した。
―――――――――――――――――――――――――
朴訥とした顔。
現実に汚されていない純朴。
構成要素は――理想。
背骨には――信念。
―――――――――――――――――――――――――
"マグロ" は
先程まで
強く
在った
自身の
<悪寒>
が軽減されている事に
気付かなかった。
その時、
腹痛も
意識されなかった。
ただ
"マグロ" が
――その時
相手を
それほど
疑っていない事は
確実に
知覚されていた。
"?":
「ボクが?」
敵意を見せず、
"マグロ" は
頷き、
相手に
<アップ>
の必要性を
――言外に
説いた。
話を変える為の
ダミーな話題であったが、
いつの間にか
本心に
すり替わっていた。
運動着から、
相手が
「”重力スケート選手”
である」
と推測し――
それまで
ずっと
意見を
一方的に与えられていた
"マグロ" は
――今度は
相手から
情報を
引き出そうとしていた。
欲していた。
すると――突然。
それまで無表情であった
"?" が
その表情筋を
動かした。
筋を捻った。
そして……――
「fun!!!」
と鼻で笑った。
"?":
「練習したって
同じだよ………――
どうせ
<キテイ>
で
”足切り”
なんだから!!」




