荘厳なる少女マグロ と 運動会
その人物は
笑みを投げかけなかった。
ただ――見つめるだけ。
だから
"マグロ" も
そうした。
挨拶は――交わされない。
目線が――外れない。
どちらが先に
視線を逸らすか
勝負している様な
長さ。
"マグロ" は
目と共に
目の周辺を
観察した。
何も表わさない――顔。
"マグロ" が
先に
根を上げた。
すぐに視線を戻すと、
相手はまだ
"マグロ" を
見つめ続けていた。
それから…――
「sopor」
を向いた。
今度は
"マグロ" が
相手を見つめ続ける
番だった。
その人物は、
”重力スケート選手”
がよく着る
<運動着>
を、身に纏っていた。
それでも
"マグロ" は
相手を
”競争者のひとり”
だとは
認めなかった。
外見で表わされる性が
違ったから。
"マグロ" は、
警戒だけ
していた。
少し前に
恋をした
"少年" とは
性差分かれて
喧嘩する相手となった
にも
関わらず、
"マグロ" は
その人物に
敵意を
向けなかった。
ただ――相手の出方を窺っていた。
―――――――――――――――――――――――――
差は、
<場の設定>
に依るものだ。
学校という
男女が同じ場所で
同じことを
競争する設定では、
同じ特徴を持つ者が
自身をグルーピングして
そうでない者を
<敵対者>
とする。
”重力スケート”
は
性差で分けられて
競争する
競技である為に
<敵対者>
は
――学校という場とは
異なる仕様となる。
―――――――――――――――――――――――――
"マグロ" は、
その人物の外見から
自身と同年代だろう
と推察していた。
その時、
"?" が
――また
言葉を口にした……――
"?":
「体調でも、悪いのですか?」
今度は――"マグロ" を見て言った。
"マグロ" は答えなかった。
"?":
「ああわかった
――みんなに
――今日の調子がわからない様に
隠してるんだ………」
"マグロ":
「別に隠してないけど……」
本音だったが、
#拗ねた嘘つき#
の様に
響いた。
すると――
"?":
「…風邪でも――引きました?」
"マグロ":
「風邪なんか引いてない!」
"マグロ" は声を荒げた事に気付き、
自身を宥めた。
"?":
「どっちにしろ
ベストコンディション
ではなさそうですね……」
そして
"?" は、
"マグロ" のタイムを
――具体的に
告げた。
<シュヴィメン場>
の隅から隅まで泳ぐ
”速さの平均”
――そのタイム。
"?":
「いま
君が泳いだ分の平均は、
去年
この大会 [地方大会] での
君の
アップの時のタイム平均より
遅かった。
それに
泳ぎ始めたばっかりの時より
泳ぎ終わった時の方が
遅くなってる。
すっごく、
遅くなってる。
すっごい――変」
そして
その
――変な話し方をする
"?" は
――続けて………
具体的なタイムを示す
”数”
を
――言葉で
提示した。




