荘厳なる少女マグロ と 運動会
"鼈" が
敵わぬ者の退場に
気を良くし、
近くの外国人相手に
喋りだした。
外国人は聞いていた。
その他大勢は、
そうでは
なかった。
それぞれが
それぞれと
話をしていたが、
"鼈" には
誰も
見向きも
しなかった。
場を去ろうとする
"マグロの姉" の気配を
探っていた。
”重力スケート協会”
の協会メンバーは
――ただ
見守っていた。
―――――――――――――――――――――――――
"マグロの姉" は――見返る。
<見返り美人>
のポーズで。
可憐では――あった。
"マグロの姉" は
背後にいる
”同じ練習場に通う少女”
に目配せした。
沈黙を続けていた
取柄の無い少女は、
頷いた。
二人は
再度
――外国人達に
お辞儀をしてから、
歩き始めた。
多くがそれに答えた。
場にいる
好く者も
――憎む者も
誰もが
"マグロの姉" の
一挙手一投足を
目で追っていた。
"マグロの姉" は
一歩踏み出し
集団を見た。
上目使い。
「pin」
と立った――
睫毛。
化粧の艶が
少女を
なまめかしく
見せていた。
外国人のいくらかは、
《自分だけが
綺麗な少女に
見つめられている…》
と勘違いした。
同性でも
少女と勝負する気のない者は
少女の
<可憐さ>
を
――外国人なりに
認めていた。
異文化として。
色々な――思惑。
ただ、
少女の焦点は
そこに
なかった。
―――――――――――――――――――――――――
輪の一番外側には、
”重力スケート協会”
に勤めている者達が
いる。
皆、
<外国人>
と同じ顔をしていた。
ただ一人だけ、
違う顔をする者が
いた。
―――――――――――――――――――――――――
進む "マグロの姉" は
それを
見ていた。
確かに
”重力スケート協会”
の協会員を見た。
ただ……――
一瞬その目に捉えられた者は、
”たった一人”
だった。
それは………――
理事だった。
”重力スケート協会”
の "理事" は
"マグロの姉" と目が会うと
――急いで
視線を逸らした。
真顔のまま。
"マグロの姉" は歩き続けた。
"マグロの姉" と
――公に
見つめ合う事を避けた
その "理事" が
――隣りの同僚に
「何か」
耳打ちした。
見えるのは……――醜き男の袖。
筒から覗く
――同僚の耳に添う様に置かれる
"理事" の手には
<濃い体毛>
が在る。
剛毛の色は
皮膚の色と
異なっていた。
その先…――
指には、
<煌めく指輪>
がある。
薬指にフィットした――指輪。
この世に存在しない
”永久”
なる
<象徴>。
それこそ――金細工。
シンプルな……――複数の”ルーメン”。
輝きは
持ち主に
相応しくなかった。
それでも、
金が金でしかない者にとって、
それは
<価値がある物>
なのだろう………。
―――――――――――――――――――――――――
"マグロの姉" は
――進みながら
目を伏せた。
優しく。
露わな項に――従順が表れていた。
少女を
訝しく思う者は、
場に
誰も
いなかった。
少女は
全員に
背を見せた。
―――――――――――――――――――――――――
"マグロの姉" は……――歩き続けた。
既に
スペースリンク場の中に
いた。
その顔には――綻び。
外国人に背を向けて
前を見る
"マグロの姉" は、
地方大会に参加する上での
<目的>
を
――その時
――ひとつ
達していた。
少女は熱を覚えていた。
<公式練習>
を始める前から
――アップを始める前から
火照る
身体。
カラダ。
スペースリンクに入り
”重力ストーン”
に乗る前から、
浮かび上がっていた。
そして…――
自身の抱くものが
<恋>
なのだと
勘違いを
していた。




