表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/1061

荘厳なる少女マグロ と 運動会

 "すっぽん" が

 敵わぬ者の退場に

 気を良くし、

 近くの外国人相手に

 喋りだした。




 外国人は聞いていた。




 その他大勢は、

 そうでは

 なかった。




 それぞれが

 それぞれと

 話をしていたが、

 "すっぽん" には

 誰も

 見向きも

 しなかった。




 場を去ろうとする

 "マグロの姉" の気配を

 探っていた。




 ”重力スケート協会”

 の協会メンバーは

 ――ただ

 見守っていた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロの姉" は――見返る。




 <見返り美人>


 のポーズで。




 可憐では――あった。




 "マグロの姉" は

 背後にいる

 ”同じ練習場に通う少女”

 に目配せした。




 沈黙を続けていた

 取柄の無い少女は、

 頷いた。




 二人は

 再度

 ――外国人達に

 お辞儀をしてから、

 歩き始めた。




 多くがそれに答えた。




 場にいる

 好く者も

 ――憎む者も

 誰もが

 "マグロの姉" の

 一挙手一投足を

 目で追っていた。




 "マグロの姉" は

 一歩踏み出し

 集団を見た。




 上目使い。




 「pin」


 と立った――

 睫毛。




 化粧の艶が

 少女を

 なまめかしく

 見せていた。




 外国人のいくらかは、


 《自分だけが

  綺麗な少女に

  見つめられている…》


 と勘違いした。




 同性でも

 少女と勝負する気のない者は

 少女の


 <可憐さ>


 を

 ――外国人なりに

 認めていた。




 異文化として。




 色々な――思惑。




 ただ、

 少女の焦点は

 そこに

 なかった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 輪の一番外側には、

 ”重力スケート協会”

 に勤めている者達が

 いる。




 皆、

 <外国人>

 と同じ顔をしていた。




 ただ一人だけ、

 違う顔をする者が

 いた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 進む "マグロの姉" は

 それを

 見ていた。




 確かに

 ”重力スケート協会”

 の協会員を見た。




 ただ……――




 一瞬その目に捉えられた者は、

 ”たった一人”

 だった。




 それは………――




 理事だった。




 ”重力スケート協会”

 の "理事" は

 "マグロの姉" と目が会うと

 ――急いで

 視線を逸らした。




 真顔のまま。




 "マグロの姉" は歩き続けた。




 "マグロの姉" と

 ――公に

 見つめ合う事を避けた

 その "理事" が

 ――隣りの同僚に


 「何か」


 耳打ちした。




 見えるのは……――醜き男の袖。




 筒から覗く

 ――同僚の耳に添う様に置かれる

 "理事" の手には

 <濃い体毛>

 が在る。




 剛毛の色は

 皮膚の色と

 異なっていた。




 その先…――




 指には、


 <煌めく指輪>


 がある。




 薬指にフィットした――指輪。




 この世に存在しない


 ”永久とわ


 なる


 <象徴>。




 それこそ――金細工。




 シンプルな……――複数の”ルーメン”。




 輝きは

 持ち主に

 相応しくなかった。




 それでも、

 きんが金でしかない者にとって、

 それは

 <価値がある物>

 なのだろう………。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロの姉" は

 ――進みながら

 目を伏せた。




 優しく。




 露わなうなじに――従順が表れていた。




 少女を

 訝しく思う者は、

 場に

 誰も

 いなかった。




 少女は

 全員に

 背を見せた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロの姉" は……――歩き続けた。




 既に

 スペースリンク場の中に

 いた。




 その顔には――綻び。




 外国人に背を向けて

 前を見る

 "マグロの姉" は、

 地方大会に参加する上での

 <目的>

 を

 ――その時

 ――ひとつ

 達していた。




 少女は熱を覚えていた。




 <公式練習>

 を始める前から

 ――アップを始める前から

 火照る

 身体。




 カラダ。




 スペースリンクに入り

 ”重力ストーン”

 に乗る前から、

 浮かび上がっていた。




 そして…――




 自身の抱くものが


 <恋>


 なのだと

 勘違いを

 していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ