荘厳なる少女マグロ と 運動会
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美しきもの…――それは袖。
フリップに向かう、女の――「袖」。
風に吹かれて捲くれる――「それ」。
決意す乙女の信念は――「rocher」。
下郎女房の指摘を――「sauter」。
望み叶わず絞らるる――「rosée (ロゼ)」。
高貴なる「violette」……――その先の袖。
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スペースリンク場
入口付近には
パルヒュゥムの
――人工的な
香りが
漂っていた。
香りを閉じ込めていたボトルは――"マグロの姉"。
揮発性の――甘さ。
姿を
――映像を介して
見られるだけではなく、
実際に
――面と面で
対話する事で
見知らぬ人間に
<カンジが良い>
という印象を持ってもらう事に
成功したのだ。
その時、
外国人は
――完全に
魅了されていた。
<外国からの客>
をもてなしている
”重力スケート協会”
のメンバーも
――多く
好ましく思っていた。
勿論――例外はいるが………。
ただ
外国人の中で
ひとり――
「アトシュム!」
とクシャミをした者がいた。
皆が焦点をずらした。
クシャミをした者が、
鼻を啜った。
別の外国人が
「お大事に」
と
――外国語で
言葉を掛けた。
クシャミをした者が、
感謝を述べた。
そして――平和。
クシャミをした者は
《風邪だ……》
と思った。
ニオイに当てられたのだとは、
気付かなかった。
《…変だ》
とは思った。
それでも、
<何が変か?>
を言語化する事
――対象を特定する事
は、出来なかった。
”クシャミ者”
は、すぐに
笑顔の輪の中に
戻る。
個性を――失う。
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大勢は
香水を
嗅覚で味わい、
酔う。
一様に。
人に
《……良いニオイ》
と思わせる香り。
人を不快から遠ざける………――助け。
しかし、
心地良き香りには
<ひとつの臭い>
が混ざっている……
――隠されている。
”ラフレシア”。
必要以上の
――押しつけがましい
粒子で
気道を塞ぎ、
人間の呼吸器官が
機能し続けようとする事を
邪魔しようとする
暴力的――
<芳しさ>。
目覚めた時にだけ
正体を現し、
認識と同時に
<吐き気>
と
<ものうさ>
に転ずるもの。
そして
人間は、
<二日酔い>
を示す肺の締め付けと
<頭痛>
の中、
”後悔と恥”
を
――ペットの様に
伴い
――引き摺り…
朝を
彷徨うのだ。
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場にいる者の中で
<二人>
だけ
<正体>
を知っている者がいた。
それらは――醜かった。
無条件の好意を
与えられない者。
<圧倒的な美しさ>
を憎む者。
それらは
美しき者を
自分達と同じ
”普通のレベル”
に下げて見る。
上にいる者を
「上から目線だ!!」
と非難する。
尊大。
尊くなく、
大きくもない
そんな……――
尊大。




