荘厳なる少女マグロ と 運動会
外国人に
<好感>
を
――それ程
抱かれていない
――寸胴な
"鼈" は
――敏感に
それを
察知した。
認めざるを得なかった。
そして
――少しだけ
意気消沈を
表した。
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同じ様な行動を取っている
<外国人の集団>
といっても
”すべてが画一的に
同じ行動を取り続ける”
とは言えない。
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"鼈" の傍にいた外国人が
――敏感に
"鼈" の表した変化に気付き、
"鼈" に
――世界共通語で
「あなたは大丈夫か?」
を意味する言葉を
投げかけた。
拗ねた子供を宥めようとする
親の様だった。
"鼈" は
――言葉をかけてきた外国人に
言葉を
返した。
その時に付された笑顔には、
陰影が濃く
過っていた。
"鼈" は
――新シーズンを迎えるに当たって
無理なダイエットして
彫りが深くなっていたから、
微笑みは
無気味に
――そこに
在った。
"鼈" に親切を投げかけた
<外国人>
は、それに気づいたが、
少女に
”世の中の残酷さ”
を知らせなかった。
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明らかに
場の中心は、
移行していた。
誰も
事実を
口にしない
――だけ。
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"鼈" の
<意気消沈>
を目で確認した
"マグロの姉" は、
優越を
知った。
"マグロの姉" の笑みが、
わざとらしく
為った。
その時、或る外国人が、話し出した。
"マグロの姉" は
顔を
そちらに
向けた。
<作為>
は、見えなくなった。
外国人にとって
"マグロの姉" の姿は
単純に
<無垢>
としか
見えなかった。
”或る外国人”
は話し続けた――
「toux…」
「……toux」
明らかに――
"マグロの姉" に向けて
だけ
話していた。
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試合前の勝負は
決まった
――その様に見える。
ただ
場の中心がずれても
"鼈" は、
戦う事を簡単に諦める少女では
なかった。
場から逃げ去る事なく、
持ち前の
<アグレッシブさ>
に駆られて
――隙あらば………
<"マグロの姉" よりも自分が優れている事>
を、証明しようとしていた。
ただ――
"鼈" には
問題があった。
その時に話している外国人の
話している内容が、
わからなかったのだ。
外国語なのだから。
"鼈" の母国語ではなく、
世界共通語でもない言葉。
世界の中でも
一部で用いられている
特別な言葉。
"鼈" には
<それが何語なのか?>
という見極めさえ
難しい。
"鼈" は、
理解しているフリをしながら、
外国人のお喋りを
聞いていた。
そして
――皆に好かれている
"マグロの姉" も
《[語学に於いては] どうせ自分と同じレベルだろう……》
と考えていた。
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世の中には
<翻訳機>
というものがある。
ただ
――現代に於いて
――そして
――異文化コミュニケーションに於ける
翻訳機の使用は
<人間の実力の無さ>
を意味する。
努力すれば得られることを
――国際人なら
――出来て当たり前の事を…
獲得していないのだ
と見做されるのだ。
機械によって便利になった世の中だからこそ、
機械に依存するだけの人間が賞賛される事はない。
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”或る外国人”は
いつまでも
"鼈" には
わからない言葉で
話し続けた。
"マグロの姉" にとって、
それは
”理解可能なもの”
であった。
"マグロの姉" は
適切な箇所で
相槌を打っていた。
"鼈" は
――ただ……
高を括っていた。
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"マグロの姉" は
<母国語>
と
<世界で最も共有されている言語>
を含め
<三カ国語>
が、出来たのだ。
教育熱心な
"マグロの母親" が
――世界で闘う為に
最低限必要なものとして
子供に強いた事。
子供が
「嫌だ!」
「やりたくない!!」
と泣きながら
努力させられた
習い事。
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話が途切れた時
――その”或る外国人”が話す言語を用いて
"マグロの姉" は
意見を挟んだ。
謙虚に。
”或る外国人”は、驚いた様子をして見せた。
意見を述べられたからと言って
気分を害した様子は
なかった。
寧ろ――逆。
そして
その
”大勢が話す事の出来る訳ではない外国語”
を話す事の出来る
"マグロの姉" を
――皆の前で
褒めた。
世界共通語で。
その時――恥じ入りを表現する "マグロの姉" は気付かない。
外国人がした事――
それは
<エグザマン(テスト)である>
という事を。
"鼈" も
気付きはしない。
少女達は
終わってから
理解するだけ。
その時に事情がわかっているのは、
”重力スケート協会”
のメンバーだけ。




