荘厳なる少女マグロ と 運動会
”重力スケート協会”
に勤める者が
――妖精の如き
"マグロの姉" を
呼び寄せた。
"マグロの姉" は
そちらへ
行った。
外国人の前で――
"協会員1":
「こちらは、
外国から視察にいらしている
”世界重力スケート協会”
の皆さんです…
――ですから
――早く
挨拶して!」
"マグロの姉" は
そう
命令された。
小声で――母国語で。
作り――笑顔。
でも "協会員1" の目は――本気だった。
言わずとも意味される……――
《外国からいらしたお客様に
失礼な事をしたら
どうなるのか
わかっているんだろうな!!?
――お前
――未来無いぞ!!!?》
――という
無言の脅迫。
"マグロの姉" は
”外国人達”
を見た。
ティミッド。
”外国人達”
は
――"マグロの姉" の出方を
窺っていたいた。
その時
誰も
"鼈" を
見ていなかった。
"鼈" は
誰からも顧みられず
――集団の背後で
"マグロの姉" を
きつい視線で
貫こうと
していた。
"マグロの姉" は、
挨拶をした。
<お辞儀>
と云う
ジェスチャーのみならず、
言葉にして
挨拶を
<外国人>
に与えた。
屈折が――残像を伴う。
長く細い首は――朝顔の花を支える蔓の如し。
澄んだ声には――シャイが混じる。
濡れ眼。
立ち姿には
――将に外来人形の様に
――大切に扱われる事を
――言葉なく
――説明書なく
――持ち主に要求する
不廉
在り。
そして陶器にはない
――静脈に沿って表わされる
色の変化。
各々――ヴィヴィッド。
その胸に抱かれし二つの珠。
磨かれた漆器の如き――反射。
外国人は
誰も
挨拶を
――言葉にして
返さなかったが、
<頷き>
によって
――"マグロの姉" の言葉を
受け入れた事を
示した。
"マグロの姉" は
挨拶を終え、
集団を観察した。
"マグロの姉" は
外国人の集団の中に
”前年のシーズン
欧米の地方都市で大会をした時
会場で見かけた人物”
を、見つけた。
その人物は
――当時
外国の会場で迷っていた "マグロの姉" を
誘導した人物であった。
"マグロの姉" は
当該人物に
――二重に
挨拶を
与えた。
それから
<感謝>
を伝えた。
”その人物”
は、
二度
頷いた。
相手に良い印象を与えようとする類の
<笑顔>
を浮かべていた。
その人物が
――突然
"マグロの姉" に
話しかけた。
外国語で。
"マグロの姉" は
――外国語で
答えた。
発話は流暢であり――控え目だった。
その時――
突然、
"鼈" が
話に割り込んできた。
"鼈":
「わたしも
その大会に
出ていました!」
"鼈" は
――世界共通語で
まくしたてた。
「欧米にある一地方都市
["マグロの姉" が優勝した大会が開催された場所]
が、どんなに素晴らしい場所なのか」
「どんなに現地の人々が優しいか」
"鼈" は
――お世辞を使って
自分を売り込んでいた。
―――――――――――――――――――――――――
試合は
試合の前から
始まっているのだ。
―――――――――――――――――――――――――
外国人は聞いていた。
明らかに
興味を失っていた。
"鼈" が
プレゼンテーション
[――別の名を独壇場………]
を終えると、
外国人は
――すぐに
"マグロの姉" の方へ
話の矛先を
向け直した。
笑顔で。
そして
目の前に立つ
”手足が長く”
”スタイルが良い”
少女に
自身が魅了されている事を
――微塵も
隠さず、
話し続けた。
隣に立つ別の外国人も
話に加わった。
そして……――周囲が巻き込まれていく。
皆
――挨拶をされる前から
"マグロの姉" を
知っていた。
そして
<好感>
を抱いていた――
優雅に
股を開いて
<ピーコックステイル(孔雀の尾)>
を繰り出す
将来有望な
”重力スケート選手”
に――
「…mero」
「meromorphic……」。




