荘厳なる少女マグロ と 運動会
自身にとって
都合の悪い者を追い出そうと
崖の先まで追いつめた者が
「直接手を下してないから」
として、
責任を逃れようとするのは
――この世では
頻繁にある事だ。
そして友達というものは、
追いつめた者が
追いつめた事を知りながら、
追いつめた者の肩を
持つものだ。
肩を抱くものだ。
"マグロの母親":
《…あいつが勝手に出て行ったんだから……――》
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"マグロの母親":
「――わたしは悪くない」
"マグロの父親":
「は?」
家族は、
地方大会が行われる
会場
そのロビーに
いた。
"父親":
「何か言ったか?」
"母親":
「何でもない」
そして
"母親" は
――夫ではなく
"怪人" を見た。
目が会った。
少し離れた場所にいる "怪人" は
"マグロの母親" と目が会った事に気付き、
顔に笑みを浮かべた。
"怪人" は
"青年の友達" の隣に座り、
片腕を
長椅子の背に
添えていた。
"怪人" は、
膝に乗っていた
空いた方の
――自由な
手を
――滑らかに
挙げる。
手首がスナップする………――
直立した指先が頭上を越え……――
挨拶した。
怪しく――笑っていた。
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"怪人":
『愛してる』
"怪人":
『前から君を好きだった…。
ずっと好きだったんだよぉ……』
そして――抱擁。
裸の首筋に寄せられた頬の――冷たさ。
―――――――――――――――――――――――――
笑いに直面した "母親" の顔は、
石の様だった。
その横顔を
"父親" が見ていた。
"マグロの母親" は、
挨拶を
返さなかった。
"母親" が、
視線を逸らす。
"マグロの父親" の目と
会った。
"父親" は
「tun」
と逸らした。
"マグロの母親" は、
言い訳をしなかった。
"マグロの母親":
《………疾しい事なんかない》
そしてそれは嘘ではない――
都合の悪い事を
正直に
言わないだけで。
そんな "マグロの母親" は思うのだ……――
"マグロの母親":
《そういえば、
この人 ["マグロの父親"] から
『愛してる』
って言われた事
ない…》
その時だった。
"マグロの姉":
「ママ!」
娘は
移動着の
上着を
脱いでいた。
"姉" は、脱ぎ捨てたものを、突き出した。
"マグロの姉":
「そろそろ
あたしの時間だから――
持ってて!」
"マグロの母親" は、
受け取りながら――
時計を見る。
"マグロの母親":
「もう――そんな時間?」
”重力スケート”
ジュニアのグループの
<公式練習>
の時間が
迫っていた。
ノービスからジュニアまで
大勢が試合に参加する為、
一度に練習場を解放すると
場に滞りが起こってしまう。
その為、
<公式練習>
の時間は、
選手全体を複数のグループに小分けし、
銘銘に割り当てる形に
なっていた。
自分の番が迫る
"マグロの姉" は
――壁に自身全身を映しながら……
身体を解していた。
薄着になり
身体のラインが
露わになっていた。
周囲が、見ていた。
ただ、
性的な意味で、
そうでは
なかった。
皆
――ただ………
"マグロの姉" の
その日の仕上がりを、
見ていた。
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不思議な事に、
スポーツをする者は
――屡
スポーツをしない者から
「頭が悪い」
(古語では
<脳筋>
という)
と揶揄される事があるが、
スポーツをする者は、
スポーツをしない者より
身体の変化を
細かく見分ける
目がある
事がある。
多くは学問に準じていない為に
――そして
――その自分の見つけた事を言語化して
――詳細に表す能力を持たない為に
「太ったね」
や
「痩せたね」
としか表現できないのだが。
古語で云う
<脳筋>
を笑う者は
――いつの世も
多いのだが、
本当に笑える事は
スポーツに準じた者を馬鹿にする者が、
痩せている者になら何でも
「美しい」
という言葉を与える事。
筋肉と脂肪すら見分けられない癖に。
そして自身の語彙力のなさを
棚に上げるのだ。
多くの人間は、
同レベルに
共感し、
自身より下を
愛でる。
低俗によって
感じられ
褒められる
<美しさ>
など――
美しくはない。
美しくなど――ない。
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