荘厳なる少女マグロ と 運動会
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"マグロの姉" と "マグロ" に
割り当てられた
公式練習の順番まで
まだ時間があった。
二人は、
家族の許に
戻った。
家族は、視線を交わしていなかった。
"マグロ" は、
"怪人" と両親が会話をした結果、
変化が現れた事に
気がついた。
"姉" はそうではなかった。
壁をタッチして
――鏡を出して
自分を見ていた。
それを "父親" が見ていた。
胸に手を当てていた。
"母親" は
物思いに
耽っていた。
”昔の恋人”
と出会い、
迫ってくる
<過去>
と共に。
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"マグロの母親" が
”ドラフト”
されていた頃、
可愛がっていた後輩がいた。
愛らしい人だった。
"マグロの母親" は
――訓練校の時代から
その後輩に
手取り
足取り
色々な事を
教えてやった。
転機は、
プログラムの組み立ての記録を
後輩に抜かれた時に
来た。
子供の様に喜ぶ後輩を見て、
"マグロの母親" は
微笑ましく思いつつ、
今迄にない思いを
持て余していた。
そして――”ABEE”の操作。
武器の組み立て。
後輩は、
"マグロの母親" よりも速く
処理を済ませる事が
出来る様に
なっていた。
"マグロの母親" は知る――悔しさ。
誰もが知り始めた――後輩の優秀さ。
"マグロの母親" が劣っているという事。
"マグロの母親" は、
一足先に
訓練校を後にした。
ただ――戦地で後輩とまた一緒になった。
"マグロの母親" は、
上官となっていた。
後輩に、厳しく当たった。
"マグロの母親":
《これも、あなたの為なのよ!》
"マグロの母親" は、
愛らしき後輩に
”だけ”、
厳しく当たっていた。
愛らしき後輩は
――戦地で発生する
幾度の困難を乗り越える為
役に立つ人材だった。
戦略でも、
"マグロの母親" が提案するプランより、
より緻密に
細部を詰める事が
出来た。
交渉事でも
その
<愛らしさ>
を発揮して、
――"マグロの母親" より
スムーズに
事を運ぶ事が
出来た。
"マグロの母親" は、
”みんなで”
障害を克服していく中
――しばしば
成功の主因となる
愛らしき後輩の活躍を
憎らしげに
見つめていた。
愛らしき後輩は
"マグロの母親" を
たてた。
「あの方 ["マグロの母親"] のお蔭です」
その度に――"マグロの母親" の評価が高まる。
"マグロの母親" は
他人から称賛される度に
頬を綻ばせる。
ただ――
すぐに嬉しさなど
消えてしまう。
"マグロの母親" は
自分が出来ない事をする後輩を
憎んでいた。
その後輩は――
<男>
――だった。
その後輩は、後輩ではなかった。
<脅威>
であり――
<敵>
であった。
"マグロの母親" は
敵国の兵士や破壊兵器を
恐れなど
しなかった。
憎みさえ――していなかった。
攻撃の命令があるからこなす
<仕事>
があるだけだった。
隣りにいつもいる
同国人の
<優秀な者>
こそ、
"マグロの母親" にとって
――たったひとつの
<敵>
であった。
いくら後輩がたてようと、
"マグロの母親" の
後輩に対する扱いは
日を経る毎に
ひどくなる
一方だった。
周りはただ見ていた。
見ている
”だけ”
だった。
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