荘厳なる少女マグロ と 運動会
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昔々、
或る所に
或る人が
いました。
”美しき者”でした。
”美しき者”には、
<気高い精神>
が、ありました。
”美しき者”は、道を進みます。
まっすぐ――進みます。
振り返る事もありますが、
歩みを止める事は
ありません。
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道を進んでいると、人に出会いました。
”醜き者”でした。
”美しき者”は、
”醜き者”に
「一緒に行こう!」
と微笑みかけました。
”醜き者”は、
笑顔を
返しました。
でも、何も言いません。
”美しき者”は
道を進みました。
”醜き者”は
後に続きました。
”醜き者”は、
気付きます。
”美しき者”の
歩くペースが
速い事。
それでも置いていかれない様に
――必死に
喰らい付きます。
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二人は、道を歩きます。
”美しき者”は
――しばしば
振り返ります。
道中、
自身と”醜き者”を励ましながら
歩くのです。
”醜き者”は
何も言いません。
”醜き者”は
励まされながら、
腹を立てていました。
「年下の癖に」
「あんたに
あたしの気持ちなんか
わかんない」
”醜き者”は、
先に進む”美しき者”を
憎んでいました。
必死に――歩いていました。
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或る時、
”醜き者”は
<不平>
を相手に告げました。
「歩くスピードが速すぎる。
こっちのペースに合わせて!!」
”美しき者”は、
従いました。
二人
並んで
歩きます。
”美しき者”は
無理をして
相手に合わせます。
「もっと速く歩けるのに…」
「もっと早く先へ進めるのに……」
それでも
”美しき者”は
”醜き者”を
怨みは
しません。
対し、
”美しき者”の隣りで
”醜き者”は
腹を立てていました。
ずっと、腹を立てていました。
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二人が道を歩きます。
”美しき者”は
道の先を見つめていました。
”醜き者”は
”美しき者”と
<自分の足元>
を見つめていました。
「ふ」
と道に
<石>
が転がっている事に
気付きました。
”醜き者”は、
それを掴みます。
そして――石を投げました。
「この道は
あたしが先に
歩いていたんだ!」
石は、”美しき者”に当たりました。
”美しき者”が倒れます。
”醜き者”は
横たわる身体を
見下ろします。
そして――踏みつけます。
「この世は――弱肉強食なの」
”醜き者”は
――ひとり
道を先へ進みます。
振り返りはしません。
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或る時、
”醜き者”は
声を聞きました。
「おーい!!!」
「おーい!!」
声は背後からやって来ます。
”醜き者”は
振り返るのを
躊躇います。
歩き続けます。
すると、
誰かに
肩を
掴まれました。
”醜き者”は
必死に
抵抗します。
「大丈夫………」
「大丈夫だからぁ……」
そう――声がします。
それは”美しき者”の声ではありません。
”醜き者”は、
抵抗を
止めました。
恐る恐る、
振り返ります。
そこには、
”醜い顔をした人”
が立っていました。
"怪人":
「君は何も悪くなぃ…。
君は
<何も>
悪くないよぉ……」
甘い――嘘。
ただ、
嘘を聞いた”醜き者”の目から
涙が溢れました。
"怪人":
「わかるよぉ………。
辛かったんだねぇ……。
今まで、
本当に
辛かったんだろうねぇ…」
相手が
”醜き者”の肩を
抱こうとします。
”醜き者”は
後ずさり
しました。
ただ、
拒絶は
しませんでした。
"怪人":
「君は何も悪くなぃ……
――悪いのはあいつだ………。
君を不快にさせた
”あいつ”
が悪いんだぁ……」
相手の指が
”醜き者”の睫毛を
拭います。
”醜き者”は
相手に
身を委ねました。
相手が、
手を
握ってきました。
”醜き者”は、
「びく」
と震えます。
それでも、
振り払いませんでした。
"怪人":
「愛してる」
二人は、
見つめ合います。
"怪人":
「前から君を好きだった…
ずっと好きだったんだよぉ……」
愛の告白は、
魔法の様に
”醜き者”
を融かしました。
”醜き者”は
キスを受け入れました。
顔を赤らめた二人は、
手を繋いだまま
歩き出します。
そして――先へ進むのです。
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道の下には――”美しき者”が埋められている。
道の上には――”醜き者”ばかり。
道の先には――………何もない。




