荘厳なる少女マグロ と 運動会
"父親" が
口を挟もうと
していた。
"母親" が
――目配せし
遮った。
"母親":
「前にもお話したと思いますけど、
美しさは
<ひとそれぞれ>
だと思います」
"母親" は、食って掛かった。
相手が
元・上官である
という立場を
無視していた。
"怪人":
「そんな戯言を
――まだ
信じているの
かぃ…?」
"怪人" は
「先輩を無条件で敬え!」
「後輩は黙って従え!!」
等と言わない。
そんな
"怪人" は、
黙らない。
"怪人":
「『美しさの定義はひとそれぞれ』
というのは(わ)ぁ……――
醜い者が
ありもしない
<存在価値>
を勝手に作り出し、
自分自身に
与えてぇ………
――さらにぃ……
――自身にぃ…
――”ジャッジの権威”
――さえ
――勝手に
――与えてぇ……
美しい者と
肩を並べようとする
<傲慢さ>
なのだ
――と
前もぉ………
言ったよなぁ……?」
説教じみていた。
だから――
"母親":
「わたしはそれに同意――」
とまで言いかけて、
"マグロの母親" は
――すぐ隣りで
――子供達が同じ練習場に通っている
或る別の母親が
――"怪人" との会話に
聞き耳を立てている事に
気が付いた。
だから
"母親" は
「しません」
と補完せず――
ミュート。
"怪人" は
そう
ならなかった。
"怪人":
「人間はぁ…
他人の意見を尊重している様でぇ……
尊重などぉ………
しない」
言葉を切った。
ただすぐに――
"怪人":
「少なくとも
『バレエ座の怪人』
は(わ)ぁ……
醜いのだぁ…。
醜いのだよぉ……
――美しくないのだよ。
醜いが故にぃ………
”マスク”
を被っているんだからねぇ……。
醜い素顔を
他人に見られない様に
ねぇ…。
世にもオゾマシイ――顔。
『バレエ座』で一人
美しい者を待つ怪人はぁ……
<自分の醜さを自覚しているが故に
美しさを手に入れる事を求めぇ………――
それが叶わないからこそ
他人の美しさを憎んでいる人間>
なんだぁ……。
そうだろぅ…?
そんな醜い怪人を
<美しく>
演じてぇ……
それを
「美しい!!!」
と叫ぶ
”重力スケート”
のファン
その頭がぁ………
悪くないとぉ……
――まだぁ…
思っているのぉ……
かぃ………?
アイドルのショーと
何かぁ……
勘違いしているんじゃぁ…
ないのかなぁ……?
本当にぃ………
怪人は……
美しいのかなぁ…?
醜い筈なのに。
解釈の自由などぉ……
ないのだよぉ………。
――素材がそこにある限りぃ……。
君ならぁ…
怪人の考えを
理解出来るだろうにぃ……
――君もぉ………
――わたしもぉ……
<醜い者>
なんだから」
畳みかける。
"怪人":
「<醜い者が美しい者を嫌う>
って心理は
君が一番
よくわかっている筈さぁ…――
そうだろう……?
――そうじゃないの
――かぃ………?」
まだ演説を止めない。
"怪人":
「君は経験者なんだからぁ……。
美しさを
潰したんだぁ…。
もしやぁ……
忘れたの………
かぃ……?
――<あの事>…」
"マグロの父親" には
"怪人" が何の話をしているのか
わからなかった。
ただ、
自分の知らない事が
"怪人" と "マグロの母親" の間にある事は
わかった。




