荘厳なる少女マグロ と 運動会
"怪人":
「スケーターとしては
理想的な体形だろうねぇ…。
手足が長くてぇ……
――細くてぇ………」
"怪人" の手足は
――人間にしては
長すぎる程長いが、
その主張は
――嫌味には
響かなかった。
求められている
<事>
と
<場>
が違うのだ。
"母親" は
――明らかに
話の継続を
望んでいなかった。
ただ――黙っていた。
"怪人":
「今年は
『バレエ座の怪人』
をやるそうだねぇ……」
"怪人" が、
"マグロの姉" を
見ていた。
"母親":
「そうなんです
――で…」
また
"怪人" が続けようとした気配を察し、
"母親" が
先手を打った。
"母親":
「相変わらず、
『バレエ座の怪人』
を馬鹿にしているんですか?」
「馬鹿」
の部分を
強調していた。
刺激され、
"怪人" は
"母親" を
見た。
そして
「K」
「K」
と
――音にして
笑いを表現した。
"怪人":
「馬鹿になんかしていないよぉ……」
さらに――
"怪人":
「わたしが軽蔑しているのはぁ………
――知りもしない癖にぃ……
怪人を…
――怪人を演じる者を……
『美しぃ………』
だの
『神々しぃ……』
だの喋る
”愚かな人間達”
だけだよぉ…。
”重力スケート”
のファンには……
――特にぃ………
そういう者がぁ……
多いから…
ねぇ……。
KっKっK………」
笑いが途切れた頃、
"母親" は
――口を開き
話を変えようとした。
失敗した。
"怪人":
「『バレエ座の怪人』なんてぇ……
ポップソングみたいな…
キャッチ―な主旋律の……
繰り返しだからぁ………、
頭の悪い者にも……
わかりやすくてぇ…
歌いやすいんだ……
なぁ………」
"母親":
「それはあなたの個人的な意見ですよね?」
"母親" は黙っていなかった。
"母親":
「誰もがそうとは――」
"怪人":
「ジョピンの
『エチュード』
の
<Cメジャー>
の
”音の展開が複雑なヤツ”
なんかぁ……
――口笛でぇ…
誰もぉ……
吹けない
だろぅ………?
吹ける奴がぁ……
いるの…
かぃ……?」
"怪人" は、人の話など、聞かない。
"怪人":
「でもぉ………
『バレエ座の怪人』
は(わ)ぁ……
出来るんだぁ…
――それもぉ……
――簡単
――にぃ………。
『バレエ座の怪人』
<程度>
ならねぇ……。
だれでもぉ…
出来るんだぁ……。
わたしだってぇ………
出来るんだぁ……。
教養のない人間でもぉ…
好きになれるんだぁ……。
簡単だもんなぁ………。
昔ぃ……
議論したの…
忘れたの……
かぃ………?
バレエ座の怪人は
<醜い>
のだよぉ……。
<ブサイク>
なのだよぉ…。
歌詞にもぉ……
そうある。
<バレエ座の怪人>
は(わ)ぁ………
美しくあっては(わ)ぁ……
いけない…
のだよぉ……。
怪人は――
『美しい』
――と褒められては
いけないのだよぉ………。
<我々>
の様にぃ……
ねぇ…」
"マグロの父親" が、
険しい顔をしていた。
"怪人" は――涼しげ。




