荘厳なる少女マグロ と 運動会
それを確認し、
"母親" は
――少しだけ
”プリーズド”
の状態になった。
勢いづき――
"母親":
「あなた、
”重力スケート”
に関心なんて
ありましたっけ?
わたしの記憶では
あまりそうではなかった様に
思いますけど――」
"怪人":
「うん
――昔から
興味はあったよぉ…。
興味はね……。
もう
忘れたのかぁぃ………?
ひどいなぁ……」
返しは素早かった。
"母親":
「むかしは、
スケートなんて
軽蔑していませんでした?」
連続攻撃を仕掛けようとする。
"怪人":
「敬語なんてぇ…――余所余所しいなぁ……。
昔はそうじゃ………
なかったのにぃ……」
"怪人" は、回避した。
そして――
"怪人":
「わたしは…
<美しい物>
は……
好きだよぉ………。
昔から――好きだよぉ……。
君だって…
知っている筈だよぉ……。
わたしはぁ………
君とぉ……
違うのだから…。
美しさを憎み……
排除しようとしたぁ………
君とは……
違うのだ…。
ところでぇ……――」
話をすぐに接いだ。
"母親" に入り込む余地はない。
突然思い出した
――除隊前の
階級の差も、
口を挟む事を
控えさせた。
"怪人":
「――君の娘さんはぁ………
大活躍の様だねぇ……」
"怪人" は
"マグロの姉" に目を向けて、
言った。
―――――――――――――――――――――――――
"マグロの姉" は
――"コーチ" の話を聞きながら
柔軟運動をしていた。
"姉" の隣りで
"マグロ" が
――直立したまま
"青年" を
見つめていた。
"青年" は
兵士の様に
立っていた。
―――――――――――――――――――――――――
娘の活躍に対する褒め言葉を与えられ――
"母親":
「どうも」
"母親" は、軽くお辞儀をした。
"怪人" は "母親" を見た。
"怪人":
「去年の…
欧米の試合の……
<プログラム>
の映像を………
見たよぉ……」
微笑んだ。
"母親":
「…どうもありがとう……――ございます」
引き攣っていた。
"怪人":
「インタビュー映像も見たよぉ………」
"母親":
「どうもありがとう」
"怪人":
「お子さんは何人だったっけ……」
"母親" が口を開き
「さ」
と言いかけた時――
"怪人":
「三人だったよねぇ…」
"母親":
「知ってるじゃないですか……」
"怪人":
「そりゃ、有名人のご一家だものぉ………
――未来のオリンピックメダリストのお家だもの」
"母親" が謙遜の首振りをしようとすると――
"怪人":
「ウチとぉ……――違うからねぇ…」
"母親" は愛想笑いだけをした。
"父親" は
――市民なりの
警戒を示していた。
それを
"怪人" は、
微笑みで
返した。
"怪人" は
――再び
"マグロの姉" を見た。
"怪人":
「綺麗な子だねぇ……」
"母親":
「そうですか」
"怪人":
「本当にキレイな子だぁ………」
"母親" は、
"怪人" が
――その時
「美しい」
という言葉を使わなかった事に、
気付いていた。
そして――
それに
”意味”
がある事。
ただ――何も言わなかった。