荘厳なる少女マグロ と 運動会
嫌味が仄めかされた
――が…
余韻として停滞する前に
――"マグロの母親" は
言葉を
接いだ。
"母親":
「結婚なさっているんですか……」
語感には
――明らかに
「ふーん」
「結婚出来たんだ………」
「ホントに?」
という、
<相手の主張の真偽を疑問視するトーン>
が、滲んていた。
"怪人" は、それを読み取らなかった。
"怪人":
「そぅ――子供もいるよぉ……。
ワイフは…
――幸いな事にぃ……
男を殴る様な女
ではないから………」
"母親" は視線を背けた。
それを "マグロの父親" が見ていた。
何かに対する
当てこすりである事が、
明白だった。
ただ "父親" には、
何に対する仄めかしなのか
わからなかった。
"怪人" に
立ち去る気配は
なかった。
ただ――笑っていた。
"怪人":
「そちらは旦那さんと――娘さんんん……?」
対象を指していた。
"母親":
「そうです」
"母親" は
――家族に
<のっぽな "怪人" が何者か?>
<自身と、どういう関係か?>
説明するのを
拒み続けていた。
だから
"父親" が立ち上がり――
"父親":
「始めまして」
手を差し出した。
"父親" が立ち上がっても
頭一つ分
身長に
差があった。
"怪人":
「こんにちは」
一音一音――区切る様。
そして――
"怪人":
「申し訳ありませんがぁ…、
わたしは
<握手をしない主義>
なのですぅ……。
特にぃ
――あなたに対してぇ………
悪意がある訳ではぁ
ありませんしぃ……、
潔癖な訳でも
ありませんがぁ…、
握手はぁ……
しないのぉ………
です……。
あなただけではぁ…
なくて……
誰とも………
しないのですよぉ……。
ご理解…
いただけるで
しょうか……?」
そこで
「entsetzlich………」
に、笑った。
"父親" が "母親" を見た。
"母親" が頭を横に振った。
"父親" は手を仕舞った。
"怪人" は微笑んだ
――見た者を
――ブリザードで包む様な
――それ。
"父親" は
言葉を用いて
相手の正体の詮索をしようとは
しなかった。
だからか――
"怪人":
「わたしは……昔の知り合いなのですよぉ…」
"怪人" に話の糸口を紡いでもらい――
"父親":
「戦場……で?」
質問に対してすぐに――
"怪人":
「そう………――戦場で。
あなたは……――」
"父親":
「”ドラフト”
から
外れました」
"父親" は、
相手から詳しい説明が為されずとも、
<問いかけの意図>
を理解していた。
"怪人":
「ほぉ…――優秀なのでしょうね」
"父親":
「そんな事はありません」
ジェスチャーでも
そう
示した。
それ以上の解説は、
必要なかった。
"怪人" は
――それ以上
"父親" に
関心を
寄せなかった。
"マグロの妹" に
笑みを投げた。
"怪人":
「……可愛らしいお子さんだぁ………」
"母親":
「スケートなんか
興味ない
って
思っていました
けど」
"母親" は
突然
話題を変えながら、
嫌味を返した。
"母親":
「あなた」
"怪人" は
――横目で
"母親" を見た。
目を細めていた。
睨む様ではないが、
あからさまに
”ディスプリーズド”
であった。