荘厳なる少女マグロ と 運動会
"マグロの家族" は
――安楽椅子の上
"怪人" の接近に
戸惑っていた。
"母親" だけが、
すぐに
相手を
特定した。
"母親" は、立ち上がった。
足を肩幅に開き、
背後で手を結んだ。
"怪人" が
「unglücklich」
と
笑った。
首を振った。
"マグロの母親" は、
臀部の上で
繋いでいた
自身の手を
解いた。
"怪人":
「…君は幾つになっても、変わらないねぇ……」
"母親":
「お久しぶりです」
「poker………」
と顔を弛緩させた
"父親" と "妹" が、
"母親" を見た。
頭を下げていた。
"怪人" は
ジェスチャーによる挨拶を
返さなかった。
"母親" が頭を上げて
――顔を斜め後方に向け
"母親":
「昔の知り合いなの」
他の家族メンバーに
"怪人" を
――詳しく
紹介するつもりはない
――という毅然。
"母親" の頭の位置は
頂点にあるが、
"怪人" の顎より
低い位置だった。
"怪人":
「そう――昔の知り合いだねぇ……。
むかしのぉ…」
"怪人" は、見下ろしていた。
全員を。
セルツァムな顔だった。
そして
――そのまま……
「………K」
「K……」
…と笑った。
<思わせぶり>
であった。
ロビーにある物はすべて
明るさに包まれている。
"母親" は、作り笑いをしていた。
出来始めた老化の徴に――黒い影が射している。
"母親":
「今日はどうされたんですか?」
"怪人":
「今日は
”付添い”
だよ……」
そして――
"怪人":
「”負傷兵の外出”
その付添い
なんだよぉぉぉ………」
声は
――広いロビーには
響かなかったが、
"マグロの母親" 達の周辺で
――地面に落ちて
――割れた
――卵の様に
――拡がり
停滞した。
足元に揺蕩う
語尾のバイブレーションは、
家族に良い印象を与えない
という意味で、
効果的であった。
"母親":
「ああ――
<戦争負傷者の会>
会員でしたっけ?」
まるで、
空気の抜けたバスケットボールで
ドリブルをしようとする
無理した
”エラン”
のエコーが
在った。
"母親" の笑いの作為性に
――腰掛けたままの
"父親" は
――既に
気付いていた。
"怪人":
「そぅ……
――…ボランティア。
ボランティアだよぉ……。
あの子は――」
"怪人" はそう言って、
離れて腰掛けている
"青年の友達" を
指差した。
指された者は、
話相手が観葉植物の方へ行ってしまった為、
ヒマそうに周囲を見回していた。
居心地が悪そうだったし、
実際に
そうだった。
"怪人":
「あの子 ["青年の友達"] は、
国の為に戦った
<英雄>
なんだ………。
国の為に戦って
負傷した
<英雄>
なんだよぉぉ……。
それに相応しい
”待遇”
があるべき
じゃないかねぇぇ…?」
"母親":
「そうですね……――そう思いますよ」
"母親" は
実際にそう思っていたが、
そう思っていない様に
伝わった。
"怪人":
「何年も………
――何年も……
君 ["マグロの母親"] に
<TRAUM>
への入会を
誘っているのだけれど…、
君は
返事さえ
くれないねぇ……」
そして
"怪人" は
"マグロの父親" を
見た。
「Pech」
と笑いかけた。
"母親":
「子育てに忙しいものですから」
「pitcher」
と響いた。
"怪人" は
サウンドのフィアースネスに
視線を引き戻された。
"母親":
「ごめんなさいね」
"母親" は笑顔を返した。
"怪人" も、笑いかけた。
"怪人":
「そうだろうねぇ………。
勿論、そうだろうねぇ……。
別に [戦争負傷者の会に] 入らなくとも、
ペナルティがある訳では
ないからねぇ…。
義務では、ないからぁ……。
わたしにも
子供がいるけれど………ね」
"怪人" は、
「K」
「K」
と
――また
笑った。




