荘厳なる少女マグロ と 運動会
―――――――――――――――――――――――――
"バレエ座の怪人":
「…ルファントーム・ィディォー・テシャティ……
――モン・ミニョン・ピジョン………
パスク・ブゼット・ラプリュベル……
――モンデン…」
―――――――――――――――――――――――――
ロビーには
人が
集っていた。
”重力スケート”
の選手なら
すぐに
見分けられる。
運動着――纏まった髪。
それらの傍にいる大人が――家族。
選手ではない
普段着の子供や幼子が、
はしゃぐ姿も
なくは
ない。
選手は
緊張する者もあり、
談話する者もある。
ロビーをよく見ると、
ヒトの群れは
大きく
――いくつか
グループに分かれている
事がわかる。
それぞれの中心には、コーチがいる。
―――――――――――――――――――――――――
駐車場から同じ速度で進んできた
"マグロ" とは別の家族が
或るグループに
――まっすぐ
近づいて行った。
"マグロ" の家族は
――その家族とは違い
すぐには
”目的の人”
を見つける事が
出来なかった。
"コーチ" の姿を探した。
途中、
"マグロの姉" は
――何度か
点在する
同じジュニアクラスの競争者たちと
視線を交わし、
視線を逸らした。
遠くからそれらを観察すれば、
"マグロの姉" が
その日
表彰台に絡んでくるだろう
<要注意人物>
として
――同年代の少女たちに
マークされているのが
よくわかる。
"マグロ" は
同じノービスクラスの選手とは
――誰とも
視線を会わさなかった。
―――――――――――――――――――――――――
"マグロの姉" が、知り合いの姿を見つけた。
続けて――
"マグロ" 達が立つ位置から
少し離れて
グループがあり、
そこに
"コーチ" がいるのを
"マグロ" と "マグロの家族" は
見つけた。
"コーチ" は、観葉植物の下にいた。
"コーチ" は
――長椅子に腰掛け
"マグロ" と同門のジュニアの選手と
話をしていた。
その二人を取り囲む様に――
雑談をしたり、
ジャンプのイメージトレーニングをしたり、
柔軟体操をしたり、
仮想ゲームをしたり
手持ち無沙汰をただ示している
そんな者達の姿があった。
そのグループにいる者は
すべて、
"マグロ" や "姉" と
同じ練習場で学んでいる
選手達
――そして
――その家族
だ。
"マグロ" とその "姉" は
それらを見つけ
――何故か
安堵を覚えていた。
"マグロ" とその家族は、
"コーチ" に寄り添う観葉植物に近づいて
行った。
―――――――――――――――――――――――――
"マグロ" 達が
同類の密集している分布範囲内に入ると、
"コーチ" が視線を上げた。
"コーチ":
「やっと来た!
――遅いじゃない!!」
"コーチ" は
"マグロ" 達に声掛け
――そして
腕時計を
見た。
"コーチ":
「連絡しようかと思っていたトコ
だったんだよ……。
後十分ほどで
公式練習
始まるって
もう
アナウンス
されてる」
同じ "コーチ" のグループ
――その構成員
全員が
"マグロ" 達を
「ちら」
と見た。
その目に
敵意は
――それ程
なかった。
同じ場所で練習する時ならば
選手同士
「負けるもんか!!!」
と
”エンミティ”
が表面化する事もあるが、
大会では
同じ門下の
”仲間”
だった
――特に
――強大な競争者が
――違うコーチの下にいる
――そんな時は
――そう
――ならざるを
――得ない。
"コーチ":
「あとひとりだね。
あの子 [まだ来ていない選手]、何してるんだろ?
――何か聞いてない?
ったく………
――十分前までには来いって
――言ってあるのに……」
"コーチ" は
――再び
時計に視線を落とした。
"マグロ" は "コーチ" から視線を外した。
来た道を振り返る。
誰もいない。
人はたくさんいるが――誰もいない。
"マグロ" は
視線を戻す。
"青年" の姿を
見つけた。
脈が実際に速くなった訳ではないが、
胸の高鳴りを覚えていた。
"マグロ" の顔が緩んでいた。
"コーチ" の座る
<観葉植物>
の下の長椅子
その隣の隣に設置された
”長椅子”
に腰掛け、
"青年" は
――大口を開けて
――声を上げて
笑っていた。
その笑い方は
「jajaja!!」
と笑う
"マグロの父親" の笑い方に
そっくりだった。
"マグロ" は、はにかんでいた。
"マグロ" の視線は
"青年" が笑いを向ける先を
――引き寄せられる様に…
捉える。
"青年" の隣りには――"青年" と同年代の男がいた。
それも――笑っていた。
大口を開けて、笑っていた。
その人は、
普段着であった。
体つきは
――どう見ても
”重力スケート”
選手では
なかった。
"青年と同年代の男" は
――笑いながら
"青年" の肩を叩いた。
動きがぎこちなかった。
それは――機械的なぎこちなさ。
―――――――――――――――――――――――――
二人は
”ドラフト”
で
一緒だった。
そして
――戦地でも
一緒だった。
そして戦地で
片方が負傷した時、
もう片方が助ける――
そんな間柄だった。
敵からのアタックによって、
片方の身体に全身麻痺が残り
――”GIVS”
――が
――国の保証制度によって
――与えられる前に
片方が病院で寝続ける
そんな期間も、
もう片方は
――何度も
相手を見舞う――
そんな間柄だった。
除隊も金も
縁の切れ目には
ならない
――そんな間柄。
そして片方が
”重力スケート”
の大会に出る時、
もう片方が
「応援に行く」
そんな――"友達"。
―――――――――――――――――――――――――




