表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/1061

荘厳なる少女マグロ と 運動会

 ―――――――――――――――――――――――――




 "バレエ座の怪人":

 「ルレ…――ジュスイ……

  ルデシェ………――ジュセ……。

  ァンコリジーブルゥ…――メ・アンスェ……アラァゴニィ………。

  ジュスト……――モンデジィール…アミニュイッ…」




 ―――――――――――――――――――――――――




 確かに、

 ”重力スケート”

 のジュニア部門では、

 <不思議な事>

 が起きていた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 プログラム・クールと

 プログラム・ロングでは

 演技の前に


 <顔見世>


 という時間が取られる。




 今は

 動物愛護の精神から廃止されているが

 古代にて栄えていたという

 馬の速さをトラックで競う

 <競馬>

 という競技では、

 競争前に

 馬の出来を

 客に見せる時間が取られていた

 という……

 ――それと同じ様なものだ。




 何人か

 ”重力スケート”

 の選手を

 ――まとめて

 滑らせて、

 その出来を

 ジャッジが見る

 という

 選手お披露目の時間が

 <顔見世>

 だ。




 試合で行う

 プログラム・クールと

 プログラム・ロングの

 演技は皆

 ひとりひとり

 個別に行う為、

 選手達を

 直接

 ――細かく

 比較するのは

 難しい。




 [誰が上で

  誰が下か]




 だからこそ、

 その

 <顔見世>

 の時間を使って、

 ジャッジは

 同じ場所に並べられた大勢の選手を比較し、

 <芸術点>

 を付ける時、

 参考にするのだ。




 その

 選手にとって

 ジャッジに出来栄えの印象を良く見せて

 <芸術点>

 を上げさせる為に重要な時間


 <顔見世>


 で、

 選手の

 ”接触事故”

 が増えたのだ。




 それも

 ――すべて

 "すっぽん" が絡んでいた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 滑走中、

 "すっぽん" と接触して

 痣を作った者がいた。




 "マグロの姉" も

 ――前年


 「あわや」


 という所で

 衝突しそうになった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロの姉":

 「そういえば

  あの

  去年怪我した子、

  どうなっただろう………」




 "マグロの母親":

 「協会は問題にしなかったでしょ?

  ――それだけ」




 ―――――――――――――――――――――――――




 "すっぽん" の蹴った

 ”重力ストーン”

 と接触した子供も

 いた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 ”重力スケート”

 のSJスピンジャンプのうち、

 アクセルを除くジャンプは

 ジャンプの入りが

 後ろ向きとなる。




 後ろ向きになって、

 片足を振り子の様に使って

 跳ぶのだ。




 その為には、

 片足を自由にする必要がある。




 そこで、

 選手は

 ――それらのジャンプを

 ――跳ぶ前に

 自身の足で踏んでいる

 ”重力ストーン”

 の片方を

 前方に蹴るものだ。




 空間を

 <漕いで>

 蹴った勢いのまま

 ジャンプするのだ。




 例えば、

 右足で踏んでいた石を思いっきり前へ蹴り

 ――飛ばし

 左足で

 ――石の上に立ったまま

 軌道に対して背中を向けて、

 屈伸して

 ジャンプし、

 そのまま左足で着石し、

 続いて

 先に蹴った石の方を

 右足で掴む

 という様な具合だ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "すっぽん" は

 前年の

 <全国大会>

 時、

 プログラム・クール前の

 <顔見世>

 で、

 五回転・SJスピンジャンプのループを行う為、

 石を蹴った。




 蹴られた石は

 ――勢いよく

 前方に

 ――彗星の様に

 跳び、

 軌道上に立っていた

 同年代の "選手" の太腿を

 掠った。




 その "選手" は


 「大したことない!」


 として、

 その後

 試合こそ棄権しなかった。




 が……

 ――誰が見ても

 ――明らかに

 調子を落としていた。




 ”重力スケート”

 協会は、

 その出来事を


 「不慮の事故」


 として処理した。




 お咎め――なし。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロの姉":

 「でも、今年も…。

  あの子 ["すっぽん"] が

  睨んできたり

  貧乏揺すりしてきたり

  したら……」




 "姉" は

 ――まだ

 泣き事を

 言っていた。




 "マグロの母親":

 「無視するの」




 "マグロの姉":

 「あの子 ["すっぽん"]、

  いっつも

  『ムス』

  ってしてて、

  傍に来ると――


  気持ち悪い。


  黙って

  ――泣きながら

  睨んでくるの………。

  すっごいキモチワルイ……」




 "マグロの姉" の

 声の調子には、

 変化があらわれている。




 "マグロの母親":

 「無視すれば良いの」




 "マグロの母親" は

 先程より娘が落ち着いてきているのを

 見抜いていた。




 《本心を吐露すると


  「すっきり」


  するものだ》


 と

 ――昔から

 言うもので――


 "マグロの母親" も

 その時、

 そう思っていた。




 それでも――




 "マグロの姉":

 「でも、無視しきれなかったら…――」




 "姉" は、しつこく、繰り返した。




 だから――


 「無視するの」


 と "母親" も繰り返す――




 "マグロの母親":

 「相手だって穏やかじゃないんだから、

  先に冷静じゃなくなった方が負け。

  戦場では――」




 そこで言葉を切った。




 "マグロの父親" が

 隣りで睨んでいる

 そんな気が

 ――"母親" には

 した。




 振り向くと――"父親" が見ていた。




 睨んでは、いなかった。




 二人の話が終わるのを、

 待っていた

 ――娘達の荷物を抱えて。




 その後ろに、"マグロ" がいた。




 ジャンプしていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ