表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/1061

荘厳なる少女マグロ と 運動会

 "マグロの姉" と "すっぽん" は、

 同じ年にジュニアへ上がった。




 二人の演技構成に

 変化は

 ――それ程

 なかった。




 それでも――変化があった。




 ジュニアに上がると

 ――突然

 "マグロの姉" の

 <芸術点>

 が、高まり始めたのだ。




 対し、

 "すっぽん" の演技に対する

 <芸術点>

 は、上がらなかった。




 全くと言っていいほど、上がらなかった。




 ノービスの頃、

 二人の

 <芸術点>

 は同じ程度の数字が

 与えられていた。




 だからこそ、

 "すっぽん" は

 それまで

 ――キテイ種目や

 ――プログラム・クールで

 ――失敗し

 プログラム・ロングの前に


 《負けそう…》


 という考えが過る事があろうとも

 ――試合では

 何とか

 ――"マグロの姉" を含む

 大勢を

 捻じ伏せる事が

 出来た。




 難しい技さえ成功させれば、


 「勝てる!」


 「失敗した分を取り戻せる!!」


 という自信が

 ――"すっぽん" には

 あった。




 それが――揺らぐ。




 自分が


 「完璧に出来た!!!」


 と思っても、

 点数が伸びない。




 "すっぽん":

 「……なんで?」




 そして――不満顔。




 対し、

 "マグロの姉" は、

 うなぎ登り。




 "すっぽん":

 「別に難しいジャンプを

  ――新しく

  やった訳でもないのに

  ナンで………?」




 <芸術点>。




 "すっぽん" は

 前年のサーキットの初戦で

 "マグロの姉" が優勝した時、


 《たまたまだ》


 と思った。




 "すっぽん":

 《まだ試合があるから

  巻き返しは出来る!!》




 泣きながら思う――


 《……次こそは!》




 しかし

 ――次の試合では…

 "マグロの姉" は落石したにも関わらず、

 失敗しなかった "すっぽん" に

 点数で迫っていた。




 国内大会でも、そういう傾向が続いた。




 試合を重ねる毎に、

 "すっぽん" の顔に

 フィンスターが過る様になった。




 "すっぽん":

 《なんで……?

  ――なんで上がらないの?

  気持ちを込めて演じているのに………

  心を込めて、表現しているのに!!》




 全国大会では

 "マグロの姉" のジャンプミスによって

 "すっぽん" は

 "マグロの姉" より上位に

 自分を就ける事が出来たが

 ――スコアを見ると

 <芸術点>

 で、大差が付いていた。




 "すっぽん":

 《なんであの子ばっかり……》




 頬に影射す "すっぽん" には、

 理由がわからなかった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 突然

 <芸術点>

 に於いて

 高得点を与えられる様になった

 "マグロの姉" は、

 ”はしゃいでいた”。




 "すっぽん" を意識して

 はしゃいでいた。




 強い筈だった

 "すっぽん" の

 <芸術点>

 が上がらず――


 それまで負ける事が多かった

 自分 ["マグロの姉"] が

 評価されていく。




 自分だけ。




 "マグロの姉" は、

 <喜び>

 を露わにする。




 奇声に似た声を出す。




 騒ぐ。




 <わざと>

 ”はしゃいで”

 見せていた。




 その傍で

 静かに泣いて闘志を示す

 "すっぽん" は

 ――”はしゃぐ”姿を

 意識に刻み込んでいた。




 そして

 ――その後

 ――試合毎に

 "マグロの姉" による

 笑顔と奇声


 「ストラット・アンド・フレット」


 が繰り返される。




 "マグロの姉":

 「また音楽の解釈点が上がった!!!」




 それを視界の隅で捉える

 ――<芸術点>

 ――が

 ――ノービス時代に毛の生えた

 ――そんな程度の評価を受ける

 "すっぽん" の目つきが、

 悪くなっていく。




 "すっぽん" は

 試合の結果よりも、

 <芸術点>

 が

 "マグロの姉" の様に上がらない

 その事ばかり

 気にする様になった。




 極めつけは、

 全国大会が終わった時だった。




 "マグロの姉":

 「今年は、

  表現の点数で

  良い点がもらえたので、

  これからは

  <表現力>

  をもっと上げて

  ――成長して

  みんなに

  『楽しいな!!』

  って思ってもらえる様な、

  そんな演技をしたいです!」




 取材された "マグロの姉" は、

 そうコメントした。




 それを聞き、"すっぽん" は

 ――勝手に

 傷ついた。




 <表現力>。




 <成長>。




 "すっぽん" は、

 自分が

 そのシーズンを通じて


 「表現力がない」


 「大幅な成長がない」


 と判断されたのだ

 と思った。




 そのシーズン、

 好成績を残した筈なのに、

 "すっぽん" は

 ノービスの頃

 勝つ度に得ていた

 <満足>

 を、手にしてはいなかった。




 "すっぽん"

 《今年は一応勝てたけど、

  来年は…――》




 "すっぽん" の視線の先には

 ――大勢を魅了する

 ”可愛らしい”笑顔が在る。




 高い

 <芸術点>

 に値する

 という

 笑顔。




 「にっこり」


 という音が聞こえてきそうな――


 表情筋の屈折。




 <成長した表現力>。




 "すっぽん":

 《もし来年も

  <芸術点>

  が上がらなくて、

  あいつ ["マグロの姉"] のだけ

  上がったら……――》




 "すっぽん" は周囲を見渡す。




 会場に足を運んだ素人の多くは

 ――ただ

 魅了されていた。




 "マグロの姉" の声を聞く

 "すっぽん" の隣で

 ”重力スケート”

 のファン

 ではない男が

 言う――


 「あの子 ["マグロの姉"] カワイイなぁ………」




 ”重力スケート”

 ファン

 の女が言う――


 「あの子、これから来るよ……

  ――ゼッタイ。

  あたしの予感って当たるんだから」




 その他が言う――


 「つい見ちゃうよ…

  ――目を惹くんだよな

  あの子」




 そして、

 誰も

 "マグロの姉" よりも順位が上の

 "すっぽん" を

 見なかった。




 "すっぽん":

 《勝ってるのに……

  ――わたしの方が勝ってるのに!!》




 誰も

 "マグロの姉" よりも難しいジャンプを跳んだ

 "すっぽん" を

 見ないのだ。




 "すっぽん" のところに

 取材は来なかった。




 周りは

 ――"すっぽん" に


 「ジュニア一年目で表彰台に上がるなんて凄いね!!!」


 とは

 声を掛けた。




 そして、誰もが繰り返す――


 「凄いね!!」


 「良かったやんね!」


 「お疲れ様!!」




 しかし、誰も言わない――


 「可愛いね!!!」


 と。


 「目を惹く演技だった!!」


 と。


 「ホント、カラダ柔らかいね!」


 と。


 「妖精みたいだった!!」


 と。




 "マグロの姉" に与えられる言葉は

 ――"すっぽん" には

 与えられないのだ。




 ジャンプについてすら………――"すっぽん" は褒められなかった。




 周りを囲まれる "マグロの姉" のラフレシアの様な笑顔と

 眉を顰めた "すっぽん" は、対照的であった。




 "(すっぽん)" はその時にはもう


 「ナンで?」


 とは考えていなかった。




 憂鬱顔の "すっぽん" は

 <理由>

 を


 「usus」


 わかり始めていた。




 ―――――――――――――――――――――――――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ