表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/1061

荘厳なる少女マグロ と 運動会

 ただ、

 会場に

 まっすぐは

 向かわなかった。




 寄り道が必要だった。




 練習場に置いてある

 ”重力ストーン”

 を取りに行かなければ

 ならないのだ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロ" と、

 その "姉" の石は、

 状態を最適化する為に

 預けたままだ。




 個人で

 ”重力ストーン”

 そのメンテナンス用の機器を購入するのは

 ――金銭的に

 不可能に近い。




 勿論、

 ”重力スケート”

 を子供にさせる親は

 リッチである事が多いから、

 その機械を家に設置している家庭も

 なくない。




 "マグロ" の家族は、

 それ程大金持ちではない

 だけだ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 石を取りに行く間――ファーレン。




 "母親" は、

 "マグロの姉" と

 ――仮想領域にて

 映像を共有し、

 演技の最終確認をしていた。




 "マグロ" は加わらなかった。




 以前、

 "母親" は

 ――試合前に

 "マグロ" と映像を一緒に見る機会を

 ――必ず

 作り

 ――"マグロの姉" に与えている類の

 アドバイスを

 ――熱心に

 "マグロ" へ

 与えていた。




 しかし

 ――或る日を境に

 "マグロ" 本人が


 「アドバイスは不必要である」


 と "母親" に告げ、

 その習慣は

 廃止される事と

 なった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロ" は


 《自分の頭の中だけで十分だ》


 と考えていた。




 普段なら

 映像の中の自分を

 客観的に見て、

 技を確認する。




 それでも、

 "マグロ" は

 試合直前に

 過去の自分の演技を

 映像で見ると、


 <粗>


 ばかりが見え、

 その粗を直そうと

 気に留めていると

 ――本番では

 別の粗が出てしまう事に

 気付いたのだった。




 さらに、

 "母親" によって与えられる

 <表現力を上げる為のアドバイス>

 が、ジャンプに集中する時、

 妨げになる事にも

 気付いたのだった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 車の中、

 "母親" と "マグロの姉" を除く三人に、

 二人が共有している映像は

 見えない。




 ただ、二人が共有している談話は、聞こえた。




 "母親":

 「ほらここ」




 "母親" が、

 車内の

 ――他人から見て

 何もない空間に、

 指先を向けた。




 "母親":

 「あんたのビールマン、

  角度は

  足りてるの。


  でも、

  三秒ちょっとで

  ――すぐに

  足を下ろし始めている。


  だから――スコアで減点になる。


  ここ。


  ここ。


  わかる?


  ちゃんとたっぷり四秒を保ってから

  下ろす様にしなきゃ」




 "姉":

 「でもあたし、ちゃんと

  ――心の中で

  四秒数えてるから!」




 "母親":

 「なら、

  四秒数えて

  ――それから

  一拍

  十分じゅうぶんに明けてから、

  下ろす様にしなさい。


  <スプリット>

  は、

  いつも時間が

  足りているのに…。


  他の屈折系は

  ――全部

  時間が足りてない。


  だから点が伸びないのよ。


  ちゃんと意識する様にして。


  この取りこぼしを押さえれば、

  もっと高得点を望めるんだからね」




 "姉" は反論しなかった。




 "母" はコメントを続けた。




 ジャンプに関しては、何も言わなかった。




 エッジや、

 ジャンプ入りの軌道についても

 コメントを控えた。




 ”重力スケート”の経験者ではない

 "母親" がコメントするには

 ――それらに関しては

 荷が重いのだ。




 "母親" はコメントを続けた。




 "母親":

 「ほら、ここ。


  いつも――そう。


  腕を後ろに回す時、

  もう少しゆとりをもって、

  優雅に。


  『ここを意識して指先のポジションを変えれば

   芸術点だってもっと上がる』


  ――って

  "センセイ" ["コーチ"] だって、

  仰っていたでしょ?」




 さらに―― 




 "母親":

 「カーブを曲がる時は

  ――スピードが落ちない程度に……

  もっと体を曲げて――


  お尻を突き出す様に!!」




 "母親":

 「ここは流し目で!!!」




 "母親":

 「男を誘惑する様に!!」




 "母親":

 「女らしく!」




 その時だった。




 "父親":

 「止めてくれないか?」




 "母親" は黙り、

 宙で指を

 ――横に

 滑らせた。




 "母親" と "マグロの姉" だけが見ていた

 <映像>

 が、ストップした。




 "母親":

 「何?」




 "父親" は前方に視線を向けたまま。




 だからまた――




 "母親":

 「ごめん。何か言った?」




 "父親":

 「ちょっと黙っててくれないか?」




 「sin………」


 ――と静まり返る。




 動力エネルギーの放つ――微かな振動。




 "母親":

 「でも会場に行ったら、

  こんな時間とれないんだからね」




 "父親" は黙り込んだ。




 娘達が空間に漏らし

 満たす

 <緊張>

 と同じものだが

 別の類の

 <張り詰めた空気>

 ――そのもと

 が二人から吹き出し、

 車の中に

 <コングロマリット>

 を作った。




 自身たちが作りながら

 それまで意識していなかった

 <息苦しさ>を

 "マグロ" も

 "マグロの姉" も

 ――その時

 知覚していた。




 "母親" は、"父親" を横目で睨みつけていた。




 "父親" は、


 《自動運転に任せなくて良かった……》


 と思った。




 《運転中だ》


 と、言い訳が出来るから。




 "母親" は "父親" を見るのを止めた。




 そして――映像を再生させた。




 コメントを続けた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 車は、

 "マグロ" が練習の拠点としている場所に

 着いた。




 車のドアを開け、

 "マグロ" は

 "姉" と一緒に、

 ”重力ストーン”

 を取りに行った。




 "マグロ" の両親と "妹" は、車に残った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ