荘厳なる少女マグロ と 運動会
"父親" は
食事をする娘から視線を外し、
ニュースの音量を上げた。
戦争の解説が行われていた。
戦地状況のリポートが終わった。
ニュース解説員:
「では…
――次は……
今朝のクローズアップのコーナーです。
本日は、
20世紀後半に流行った
<ストリング・セオリー>
をクローズアップしてみます」
"父親":
「jajaja」
"父親" は笑った。
"マグロ":
「何が可笑しいの?」
"父親":
「ん?」
"マグロ":
「今、笑ったでしょ?」
ニュース解説員:
「現代では
”ジョークの種”
として使われる事の多い
<ストリング・セオリー>
ですが、
当時は
宇宙の神秘を解く為に
大変重要視されていた理論でした――」
"父親":
「jajajaja」
"父親" が
――再び
笑った。
"マグロ" は黙って口を動かしていた。
"父親" は
――ニュースを聞きながら
ニュースを見ていなかった。
独り言の様に
――テーブル越し
"マグロ" に話しかけた。
"父親":
「<ストリング・セオリー>
そのものは、
別におかしくないんだよ。
今でも
同じ様な考え方
あるし。
それに――
<”点”を
それまで昔の人が考えてきた様には
捉えない様にする>
という試みとして見れば、
すごく大切なステップでもあったらしいよ。
”点”の研究は
――歴史でも
長い間
放って置かれてたから。
でもな――
jajaja。
<ストリング・セオリー>を使うと、
色んな事が変になる
――変になるんだよ。
だからジョークにされるんだ。
有名なので
こういうのがある――
―――――――――――――――――――――――――
或る人("A"氏)がトワレッに行く。
すると、ドアに
「使用中」
のサインが点いていた。
だから、"A"氏 は待った。
でも………
――いつまで待っても……
トワレッのドアは開かない。
"A"氏 は耐え切れなくて、
ドアをノックした。
すると、
『入ってます…』
と、声がする。
震え声だ。
その後、
いくら待っても、
中からヒトは出て来ない。
だから、
"A"氏 は
――もう一回
トワレッのドアを
ノックした。
すると、
また
『入ってます……』
と、震えた声がする。
『もうイイだろ ! 早く出ろ!!』
と急かすと、
『無理です!!!』
と、声がする。
トワレッを我慢している "A"氏 が、
『なんでだ!!?』
と尋ねると、
中に入るヒトは、
こう答えてきた。
『わたしは
<ストリング・セオリスト>
ですから
――この次元では………
出そうとしても
出ないのですよ……』」
―――――――――――――――――――――――――
"父親":
「jajaja」
"マグロ" には、
何がおかしいのか
わからなかった。
それを見て――
"父親":
「お前には未だわかんないかもな…
――ま、11次元になれば出るんじゃないか?」
"マグロの母親":
「何の話してるの
――この忙しい時に……」
"母親" が食堂に入ってきた。
"父親" は、
笑顔を仕舞い、
黙り込んだ。
視線を外していた。
"マグロの姉" も
――"母" に続いて
入ってきた。
髪が、纏まっていた。
そして………――固まっていた。
髪飾りは付けていなかった。
"姉" は
――手首を
――「くねくね」
――捻りながら
居間に向かっていった。
指を撓らせ、
手の甲を反らせる時、
「pock」
と、オスの音がした。
"マグロ" は食事を終えていた。
"母親":
「あと三十分で出るからね」
そして――"母親" は、"マグロ" を手で急かした。
"マグロ" は
――少しだけ
身体の調子がマシになった様に
思った。
"父親" は、ニュースを見ていた。
それを 見て――
"母親":
「あなた、車の準備しといてよ」
"父親":
「わかってる」
"母親":
「あなたいっつもそうやって言って……」
"父親":
「わかってる」
「いらいら」
していた。
"マグロ" が
着替え、
髪を纏めようと
動き出した。
その時になって、思い出す…――
手紙の事。
居間を見る――手紙はない。
"マグロ" が立ち、"父親" に話しかけた。
"マグロ":
「ねぇ、手紙知らない?」
"父親":
「手紙?」
"マグロ" が
詳細を話そうと
口を開いた
その時だった。
"母親":
「そんな所でぐだぐだしてないで速く動く!」
"マグロ" は、"母親" の命令を聞いた。
素早く――歩く。
体調の悪さは、意識に上っていなかった。