荘厳なる少女マグロ と 運動会
"マグロ" は
”コシュマール”と”ABEE”に関して
――"母親" と
話すのを
止めた。
代わりに、
その日の朝
――暗い内…
に届いた
<手紙>
について
話そうとした
――その時だった。
部屋のドアが開いた。
"マグロの姉":
「ママン……」
"姉" はもう
移動着に
着替えていた。
手で、
髪を
後ろに
――アップにして
縛っていた。
"マグロの姉":
「あたしのヘアスプレーどこ?」
そして――握っていた手を自由にした。
髪が拡がって――肩に落ちた。
そのまま。
"母親" は
――廊下に向けて
上体を捻っていた。
"母親":
「サロン・ドゥ・バンにないの?」
"マグロの姉":
「ない」
と、即答。
"母親":
「自分で検索しなさいよ」
家の状態を管理する人工知能が
――生活必需品程度なら…
位置を把握しているから、
キーワード検索をすれば
すぐにわかるにも関わらず………――
"マグロの姉":
「ちょっと来て!」
"姉" は手招きをした。
"母親" は、"マグロ" に向かって――
"母親":
「じゃ、
そろそろ出かける時間だから、
あんたも朝ごはん、
食べちゃいなさい」
"母親" は、腰を浮かせた。
"マグロ" は、視線を逸らした。
"マグロ" は、腹に手を置いた。
胸焼けがした。
"マグロ":
「食べたくない」
"母親":
「今日は試合なんだから、食べないと……」
"マグロ":
「食べなくない」
"母親":
「今から無理にでも入れて
消化器官を慣らしておかないと
前の時みたいになるよ…」
"マグロ":
「いらない!」
"母親":
「あなたは食べるの」
<感情的>
と形容される状態で
――その言葉は
発されなかった。
ただ――威圧だけがあった。
どんな頑固者でも抵抗する事の出来ない
――<親子>
――と云う上下関係によって
――導き出される
”命令”。
"マグロ" は、従う事に決めた。
”抵抗”は
――その時
選択肢として
なかった。
"母親" は
――相手が自分の命令に従う事が
――当たり前である様に
――振舞い……
背を向けた。
"マグロ" がベッドを出る――
「のろのろ………」
――と。
"母親" の背中。
その時だった。
"マグロ":
「お母さん……」
"マグロ" は、指を伸ばそうとして――止めた。
"母親":
「何?」
"母親" は振り返った。
廊下には、
"姉" が立っているのが、
見えた。
"マグロ":
「…手紙は?」
"母親":
「手紙?」
"マグロ":
「うん。手紙……」
"姉" が、嫌な顔をして、急かしていた。
"母親":
「何の手紙?」
"マグロ":
「朝の………」
"マグロ" は
"姉" の姿を
――視界の中で
暈した。
"母親:
「朝?」
"マグロ":
「うん……今朝来た手紙」
"母親":
「今日?」
"マグロ":
「今日」
"母親":
「今日の朝?」
"マグロ" は頷く。
"母親":
「今日は手紙なんて来てないよ」
"マグロ":
「来た」
"母親" は、怪訝を示した。
"母親":
「いつ来た?」
そこに詰問の調子は、なかった。
"マグロ":
「まだ暗い内…」
"母親":
「なんの――」
質問の文章が完成する前に――
"マグロ":
「目が覚めちゃったから……」
"母親":
「どこにあるの?」
声のトーンがきつくなった。
"マグロ" は狼狽しなかった。
"マグロ":
「居間」
"母親":
「今?」
"マグロ":
「居間。
<リヴィング>。
居間に置いた」
指で、方角を示していた。
"母親":
「そんなの――ないよ?」
"マグロ":
「え?」
"母親":
「そんなのなかったよ」
"マグロ":
「わたし置いた」
"母親":
「ホントに置いたの?」
"マグロ":
「置いたよ」
"母親" は間を置いた。
すると "姉" が――
"マグロの姉":
「ねぇ、あたしの――」
"母親":
「わかったよ!」
大声だった。
そのまま
"母親" は、
マグロに向かって………――
"母親":
「とにかく、
先に朝ご飯を食べちゃいなさい。
髪を結う時間がなくなるよ」
そして……――背中。
"マグロの姉" が歩き出した。
姿が消えた。
"母親" も続いた。
そして
後続で部屋を出ようとする "マグロ" が気づく…――
睡眠をとっても、
<身体の怠さ>
が解消していない事。