荘厳なる少女マグロ と 運動会
筋肉質な身体だった。
”ドラフト”制度によって
戦闘員として鍛えられた過去が
――"母親" には
ある。
最終的には
データ解析の任につく事となったが、
訓練校では
誰もが同じ
<肉体鍛錬のカリキュラム>
をこなさなければならないのだ。
男でも
女でも。
いくら今は除隊しているからといって
――そして出産を経験したからといって…
"母親" の肉体が
――急速に
訓練以前の状態に戻る事は
ない。
それに……――
エクササイズは
――"母親" にとって
習慣になっていた。
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そんな "母親" が抱きしめる少女の身体も
――同世代の子供達に比べれば
柔さはあまりもなかった。
ただ、
"母親" は
腕の中で
<強さ>
を放つ娘の身体を
――兵士というより………
《本当に、アスリートの体つきだな……》
と識別していた。
そして――
"母親":
《最後に
この子を抱いたのは…
いつだったっけ……?》
――過去を思い起こしていた。
そして………――
滅多に愛情行為を示さない娘の
<非日常>
を、嬉しく思っていた。
同時に、探っていた……――
あまり手の掛からない子供が
母である自分を強く要求する
その理由を。
"母親" が
話を切り出そうとした
その時だった。
"マグロ" は
突然
母親の腕の中で
目を見開いた。
そして
――自分の周囲で組まれた
"母親" の腕を
外そうとした。
"母親" は、娘がするがままにさせた。
自由になった "マグロ" には、
<恥>
があった。
まだ少女ではあるが、
一人の人間として
親に甘えるという行為が
――社会的に
当然だとは
――他人に
見做されない
そんな年齢に
達していたから。
"マグロ" と "母親" は
同じベッドに腰掛けながら、
距離を作った。
"母親":
「どうしたの?」
"母親" は手を伸ばし、
娘の髪を
――その指で
梳こうとした。
"マグロ" は
――身体を捻り
その手を遠ざけようとした。
"母親":
《やっぱりこの子は、お姉ちゃんと違う…》
"マグロの姉" は
髪のセットを "母親" がする事を
嫌がらないのに――
"マグロ" は
――飽くまでも……
自分でする事を
望む子供だった。
"母親" がセットしても、自分でやり直す子供であった。
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そんな "マグロ" は、泣かなかった。
それまで黙していた "マグロ" は
――突然
――口を開き
まくしたてた。
"母親" は
――言葉で
"マグロ" を落ち着かせた。
"マグロ" は落ち着きを取り戻した。
そして、
自身の
”コシュマール”
について………
――より具体的に
話した。
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現代の脳心理学の技術に於いては、
或る者が就寝中に見る
<夢の内容>
(ヴィジョン)
を
<他人が見る>
という事が
可能になっている。
夢にて展開するヴィジョンを保存して、あとで見返す事も出来る。
夢の内容をコントロールする事も出来る。
だから
”コシュマール”を見ない様にする事も出来る
――実際
――リッチな精神消耗者には
――睡眠の最中
――<”コシュマール”改変>
――が施される事がある。
ただ、その
夢を保存したり
夢をコントロールしたりする技術は
――すべて
市井に下っている
とは言えない。
機具を購入するには、莫大な額の金が必要なのだ。
夢の為に収入をつぎ込む者は少ない。
それに……――
大勢は、
自身の夢の操作に
――それ程
関心がある
とはいえない。
<眠っている間、
夢で
どんなシーンを見たか?>
という問題については
――勿論
関心がある人間は
――現代でも
多い。
ただ、夢に見るだろう事を
<どう改変するか?>
<何を見たいか?>
という具体的な希望を
――多数
持つ者は
あまりいない。
誰もが一度は
<夢のヴィジョン改変>
を体験する
――主に健康診断で
――睡眠状態を調べる際に
――体験する。
が、
一度体験すると
――大抵は
「十分だ」
と考えるものだ。
データで出ている。
そして
――これもデータとして出ているが…
人間は
――”コシュマール”が
――日常的に
――睡眠中
――挿入される可能性があろうとも……
夢にて見るシーンが
○ ランダムで
○ 予想不可能である事
を求める傾向にある。
そして大勢は
「夢を保存したい」
という願望を持ち続ける事があまりない。
保存されたそれは――
それ程見たい訳ではないが、
後で見るつもりであった
<映画>
の様に――
最後には
”見ないまま”
で終わる事が多い。
その為、
大金を叩いて
個人用に装置を購入する者
機具を家に備え付ける者は、
あまりいないのだ。
プライベートで入手する事に関心がある者は
なくはないが
――ほとんどが
研究者か、
好事家だ。
少なくとも、"マグロ" の家族は、どちらでもなかった。
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