表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/1061

荘厳なる少女マグロ と 運動会

 "マグロ" は、壁を見続けていた。




 裏口の映像に――変化はない。




 "マグロ" は壁をタッチした。




 裏口の映像が消えた。




 ただの――壁。




 それに沿って――




 "マグロ" は裏口に向かった。




 ロックを開けた。




 途端。




 "マグロ" という存在が認識され

 ――自動的に

 裏口が開いた。




 風が吹きこんできた。




 "マグロ" は、外に出た。




 裏口専用のライトが点った。




 裏口のライト

 その分布範囲外は

 ――まだ

 遠い場所で裾だけを

 己とは異質な者に与える

 そんな夜の中心付近にある

 ――ディリュートする事のない

 濃い部分

 に、くるまれたままだった。




 夜は

 ――バケーションを終える時

 ――旅立つ者達に

 ――別荘が無人となる事をただ示す

 埃よけのカバーの様だ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 人は、


 「孤独だ」


 と言いながら、

 <自分>

 というパートナーに

 寄り添っているものだ。




 対話する

 <自分>

 という相手さえいれば、

 次の夏を待ち続ける避暑地の別荘に

 ただ存在するだけの

 調度品程は、

 寂しくないだろうに。




 それは――”寂しさ”さえ、感じないのだ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 手紙は、そんな暗さの支配下に、なかった。




 "マグロ" は、すぐに手紙を見つける。




 何の変哲もない…――手紙の外見をしたもの。




 "マグロ" は端を摘んだ。




 地面から


 「ぴりっく」


 と

 <剥がれる様なカンジ>

 があった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 ”ABEEあびー”は、


 <接着剤>


 を

 そのくちから

 吐く事が出来る。




 手紙の様な

 ――無造作に置いておくと

 ――風に吹かれただけで動きそうな

 軽量な物を運ぶ際に、

 目的の物を

 目的の場所に

 残す為だ。




 この<接着>機能は

 市販されている”ABEEあびー”に

 大体備わっている。




 それは

 簡単に

 ――受領者が

 指で剥がす事が出来る程度の

 ――ただ

 ――力の掛け方によっては

 ――極めて強力となる

 グル―能力

 である。




 ―――――――――――――――――――――――――




 地から離しても

 手紙そのものは、

 破れなかった。




 「ふ」


 と "マグロ" は顔を上げた。




 ”ABEEあびー

 の姿は

 何処にも

 ない。




 無理数の先端の様な――墨染の朝。




 "マグロ" は

 手紙を伴い

 ――室内に入り

 裏口のドアを

 ――手動で

 閉めた。




 手動でロックする。




 手紙には、

 宛先も

 差出人も

 なかった。




 "マグロ" は

 ――それが

 いつも来る

 <"ヘンタイ" からの手紙>

 だと思った。




 ただ……――




 ”コシュマーク”のイメージが、

 再起する。




 "マグロ":

 「………お母さん」




 ―――――――――――――――――――――――――




 軍服を着る――"母親"。




 敬礼をする――"母親"。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロ":

 《開けたらどうなるだろ?》




 よく来る手紙の存在自体については、知っていた。




 "姉" から、内容の概要を知らされてもいた。




 それでも……――




 "マグロ" は

 <手紙の文章そのもの>

 を見た事がなかった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 逡巡しているその時、

 普段から与えられている "母親" の忠告が

 ――頭の中

 甦って来た。




 "母親":

 『いい?

  手紙が来ても

  ――絶対に

  ――勝手に

  開けちゃダメだからね…』




 "マグロ" は、開けるのを止めた。




 突然、

 "マグロ" は

 <怠さ>

 が、やって来た

 のを知った。




 それまで忘れていた……――”シュベール”。




 ダルな身体。




 そして――腹痛を覚えた。




 "マグロ" は坐りたかった。




 座った。




 少し――マシになった。




 それでも――身体は重いままであった。




 座ったまま、天井を見上げる。




 何をする気にもならなかった。




 突然、眠気が来た。




 指の間から

 手紙が


 「はらり」


 と落ちた。




 手紙を摘みなおした。




 欠伸が出る。




 "マグロ" は

 手紙を居間に置いて、

 部屋に戻った。




 その目――半開き。




 そのまま――ベッドに入った。




 "姉" は

 ――妹の隣で

 ――背を向けたまま

 身動きひとつ

 しなかった。




 寝息も聞こえなかった。




 "マグロ" は

 ブランケットの下で

 目を瞑った。




 そして………――




 その日の午後にはもう始まる筈の

 ”重力スケート”の試合

 について、考え始めた。




 明らかに


 <不安>


 があった。




 "マグロ" の周囲が白ばみ始めるのは

 ――不安を抱く

 "マグロ"

 が

 再び

 ”コシュマール”

 に落ちてからの事だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ