荘厳なる少女マグロ と 運動会
"マグロ" は
「ぎく」
と狼狽した。
じっとする。
音はしない。
音はしない。
"マグロ" は
《聞き間違いか》
と自分を疑った。
壁をタッチした。
壁に――画が浮かび上がる。
コントロールパネルを開き、
裏口の映像を立ち上げた。
壁に映るは――…真っ暗。
誰もいなかった。
ただ
――朝でありながら
――朝に該当していない様に見える時間特有の
静けさが在った。
"マグロ" に恐怖はあまりなかった。
"マグロ":
《猫でも来たのかな……》
よく見る。
すると
――黎明にも満たない時間に於いて
――”光の欠如”という状態に
――すべてが染められている中
一際際立つ
白い
<何か>
が落ちている
のが分かった。
"マグロ" は、それが
「………手紙だ」
と見当をつけた。
ただ……――見当をつけただけでは済まさなかった。
壁をタッチして
――親指と人差し指を使って
映像の中でディスティンクトな
その
<白い何か>
を、拡大した。
やはり――手紙以外には見えない。
さらに拡大してみる。
表面には、
文字も
絵も
記されていない。
中身は――予想がついた。
ただ…――
"マグロ" の頭の中には、
”コシュマール”
で見た
<ヴィジョン>
が甦って来た。
それは――本当にいつもの<悪口ばかり>の手紙なのか?
それは――”ドラフト”を要請する手紙なのではないか?
"マグロ" は幼く、
”ドラフト”が
「紙に印字された手紙の形式では来ない」
事を知らなかった。
"マグロ" は、待った。
裏口の映像に、動きはない。
手紙は――横たわったまま。
"マグロ" は
――壁にタッチし
過去三分間の
――裏口の
映像を
早戻しした。
結果……――
白い手紙が現れる時
を確認する事が出来た。
ちょうど物音が聞こえた時であった。
運ぶ者の姿はない。
それは
――映像の中
上から降ってくる様に………――
滑り……――
…落ちた。
"マグロ" は
壁をタッチし、
映像を裏口から
<家の上空>へ切り替え
――同じ様に
――時間を遡って
見た。
戻し過ぎた時間の夜空には、星しかない。
待った。
突然、
遠くの空に
白が現れた。
手紙が飛んでくる。
それは
――風に乗って
――気紛れに
――「ひらひら」
――迷子の様に
夜空を
――ジグザグに
飛んでは来なかった。
ダイレクトに――"マグロ" の住む家に向かって、飛んできた。
"マグロ" は、
おとぎ話に登場する
《”魔法の絨毯”みたいだ……》
と思った。
寧ろ――野球の”直球”の様であった。
そして
――ダイレクトに
手紙は
"マグロ" の家の裏口辺りに
落ちた。
"マグロ" は
映像の視点をずらして
裏口の
――過去の
様子を
再び見た。
落ちた瞬間。
手紙が在る。
ただ――手紙<だけ>が在る訳ではない。
手紙の四隅で、
小さな光が、
点滅していた。
その四つの光が突然
――手紙から離れる様に
浮かび上がった。
そのまま
――その光は
来た道を帰って行く。
《”ABEE”だ………》
と、
"マグロ" は
推察した。
その推察は――間違いではなかった。