荘厳なる少女マグロ と 運動会
"マグロ" は眠っていた…――
……目覚める。
辺りは暗かった。
窓の外に、朝の兆しはなかった。
姉妹は、眠ったままだった。
"マグロ" は、部屋を出る。
"母親" がいた。
その手に――手紙。
俯いていた。
"マグロ":
「………お母さん?」
"母親" が顔を上げた。
"マグロ":
「また来たの?
――変な手紙……」
"母親":
「お母さんね…――戦争に行かなきゃいけない……」
"マグロ":
「えっ………?」
間。
"マグロ":
「……なん…で?」
"母親":
「”ドラフト”が来たんだ」
手紙を持ち上げた。
"マグロ":
「嘘!」
―――――――――――――――――――――――――
"マグロ" は、
"母親" が若い頃に
ドラフト制度によって
――徴兵され
兵役に就いていた事を
知っていた。
そして――
戦地に滞在した事も。
戦地での様子を
――"母親" は
多く語らなかったし、
娘も
多く尋ねなかった。
―――――――――――――――――――――――――
"マグロ":
「でも……
――だっ………て……
”ドラフト”って…
――”ドラフト”って
二回目は
ないんでしょう?」
"母親":
「戦争が始まったの」
"母親" はそれ以上、何も言わなかった。
何も言わずに――まっすぐ娘を見つめる。
"マグロ":
「でも……――でもっ!」
"マグロ" は視線を逸らした。
"母親":
「行かなきゃならないの」
毅然が在る。
"マグロ" は、"母親" を見た。
"マグロ":
「だって………――」
"母親":
「行かなきゃならないんだ――」
―――――――――――――――――――――――――
"マグロ" は、目を覚ました。
ベッドの中にいた。
汗を掻いていたが、
《汗を掻いてる》
とは思わなかった。
辺りは暗かった。
窓の外に、朝の兆しはなかった。
”コシュマール”だった。
"マグロ" は、
安堵の溜息を
つかなかった。
場面が
「夢であった」
と判明しても、
現実世界に
<イメージの産物>
――そのフィクション性
は
――尾を引いて……
残ったままだった。
<不安>――という形になった。
"マグロ" は、明かりを点けなかった。
薄暗い部屋の中
――ブランケットの下
身体を動かす。
動作に気付き、
"マグロの姉"
が、目を覚ました。
"マグロの姉":
「…起き……たの………?」
"マグロ" は、返事をした。
"マグロの姉":
「いま……――何時?」
"マグロ" は時計を見た。
早朝だった。
"マグロの姉" が
普段
朝練に行く為に目覚めなければならない時間より
だいぶ早かった。
"マグロの姉":
「何でこんな早くに起こすの!?」
眠りに半分溶けた意識を
絞める様に出された声は、
ヒステリックに
響いた。
"姉" は、寝返りをうった。
"マグロ" は、謝罪の言葉を口にして――ベッドを抜けた。
歩く――身体が妙に重かった。
"マグロ" は
《疲れが取れてないんだ》
と思った。
疲れが
翌日に繰り越される様な機会は
――それまで
ない訳では
なかった。
ただ
――少女にとって
――目覚めと共に知覚される
――錘が皮膚に編み込まれた様な
――<怠さ>は
珍しかった。
いつもなら、
発熱しても、
動き回る事を欲する程なのだ。
"マグロ" は
――大人がする様に
自分で肩を揉んだ
――頭を傾けながら。
ドアに近づくと――
ドアが開いた。
廊下に出るや否や――
自動的に明かりが点いた。
"マグロ" の背後で
ドアが
――自動的に
閉まった。
家の中は、静まりかえっていた。
小鳥の「マタン」さえ…――
聞こえない。
廊下を歩く "マグロ" の動作音
――擦れる様な音
だけが生まれ……――
………消える。
また生まれて――消える。
床は軋まない。
"マグロ" は、
両親の寝室に
向かおうとしていた。
”コシュマール”が、
《現実じゃない》
と思いながら、
<現実ではない事が本当に起こっていないのか?>
その目で
《確認したい》
と願っていた。
その時。
裏口に――
物音。




