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荘厳なる少女マグロ と 運動会

 "父親" と "妹" は、

 "マグロ"達 より

 先に

 家に

 着いていた。




 "父親" が夕飯の支度を済ませていた。




 夕食の前に、

 "父親" が

 "母親" を

 別室に呼んだ――




 娘達に

 聞こえない様に。




 "父親":

 「今日も来てたから、一応…」




 "父親" は

 "母親" に、

 手紙を差し出した。




 紙の――手紙。




 人々のやり取りが、

 電話やメールが主な社会の中で、

 珍しい存在。




 差出人も、宛先も、なかった。




 "母親" が開くと、

 <誹謗中傷>

 が書いてあった。




 「少女が猥褻行為をしている」




 ――という

 ――証拠のない指摘。




 そして


 「少女が、

  ”重力スケート”の地方大会を

  棄権するよう


 勧めていた。




 "母親" は熟読しなかった。




 そのまま廃棄する。




 "母親":

 「また……か………。

  ……ヒマな人」




 そして…――軽蔑。




 いつもの事なのだ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 警察に相談した事があった

 ――以前の犯人は

 ――すぐに

 ――捕まった。




 町中が監視しているのだ。




 映像も保存されているのだ。




 誰が

 何処で

 何をしているのか

 を隠すのは

 難しい。




 ”壁の目”をかいくぐる事は難しい。




 ―――――――――――――――――――――――――




 ただ

 警察は

 ――犯人に対し

 警告するだけだった。




 警察が悪いのではない

 ――警察は法的に手が出せないのだ。




 犯人は

 ――別に

 何か具体的に

 危害を加えた

 訳ではない。




 特に "マグロ" の家に届けられた手紙には、

 ”固有名詞”や”特定の人名”が

 記入されていなかったから、


 「攻撃対象は、

  "マグロ" の家族

  誰でもない」


 「別人に送るつもりが、手紙を投函し間違えた」


 「抑々、別人に手紙を届ける様に頼まれただけだ」


 等と言い逃れをされると、

 法的に追い詰める事が難しかった。




 特に

 ――現代では

 家に表札を付けている者はいないのだ。




 手紙を届ける姿は記録されていても

 ――犯人に対し

 出来る事は少なかった。




 さらに――


 必要以上に投函者を追求する事も

 控える必要があった。




 <誹謗中傷>

 を送る者は、

 ”人生を捨てている者”

 だった。




 終わりを早めようとしている者だった。




 下手に刺激すると、

 より悪い結果を引き寄せる事に

 なりかねない。




 ―――――――――――――――――――――――――




 ”犯人”は

 収監される事なく

 暮らしている。




 しかし、

 幸いなことに……――

 <誹謗中傷>の投函者は、

 別の方法で

 刺激してくる事はなかった。




 "マグロの姉" に

 直接

 接触

 を計った形跡はない。




 手紙だけなのだ。




 必要以上に狼狽える事はなかった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 何より、家族には覚悟が出来ていた。




 "マグロの姉" が

 ”重力スケート”の強化選手に選ばれた時、

 協会主催のオリエンテーションがあり、


 「成績が上がるにつれて

  世間から

  ――多くの

  <悪意に満ちた干渉>

  を受ける」


 という事、

 そして――


 「それが不思議でもなんでもない」


 「多くの有名選手が通過してきた道」


 という事が

 ――既に

 説明されていた。




 よって、

 手紙が来ても


 <予想される事が起こった>


 ――それだけだった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロの両親" は

 ――最初

 娘 ["マグロの姉"] に

 <毀謗の手紙>

 の存在について

 ――ずっと

 知らせなかった。




 娘の目や耳に入る前に、

 握りつぶしていた。




 ただ

 ――或る日………

 "マグロの姉" は

 ――勝手に

 宛先も差出人も記されていない手紙を

 開けたのだった。




 勿論――ショックを受ける。




 特に

 毎日スポーツ活動に従事する少女なら

 目にすることのない

 卑猥な写真が

 手紙に

 添付されているのを見て、

 興味より

 嫌悪を抱いた。




 "母親" に知らせた。




 "両親" は、

 子供が勝手に手紙を読んだ事を叱るよりも、

 状況を説明して、子供が


 「為すべき事」


 を伝えようと努めた。




 "マグロの姉" は――すぐに受け入れた。




 状況を整理すれば、

 狼狽が

 ――すぐに

 消える訳ではない。




 それでも――


 ※国を代表する

  ”重力スケート”の選手たちは

  ――多かれ少なかれ……

  皆

  同じ様な目に会っている事


 ※物が存在するこの世界でも

  大勢が同じ様な事をし

  物質が存在せずに情報がやり取りされる世界でも

  大勢が同じ様な事をしている事


 ――を

 幼い少女は理解した為に、

 過激な不安を見せる事が

 なかった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "父親" が "母親" を別室に呼んだ時、

 "マグロの姉" は

 <何について話すのか>

 予想が付いていた。




 そして

 ――深く話しこむ為の時間を取らず…

 直ぐに "両親" が別室から出てきた時、

 予想を確信に変えた。




 ひとつ確信を得たつもりになると、

 次々と

 ――連想で

 様々な要素を拾い上げ、

 自分の考えの妥当性を

 補強していく。




 "マグロの姉":

 《あの人達が喧嘩する時は

  怒鳴り声が

  ――こっちまで

  聞こえるのに、

  それさえない。

  ゼッタイまた変態の手紙が来たんだ》




 ただ

 ――わかったからといって

 何もしない。




 何が出来る訳でもない。




 "マグロの姉" は、

 それまで楽しんでいた時間潰しの娯楽に、

 興じ続けた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロ" も "姉" と同じ程度に

 状況を予想し、

 確信していた。




 "マグロ" は "姉" から

 <いたずらの手紙>

 の話を知らされていたし、

 "父親" を問い質した後、

 より詳しい情報を獲得していた。




 そんな "マグロ" も――どうする事も出来ないのだ。




 いつも通りを続けるだけ。




 "マグロ" も娯楽に興じていた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 家族の中では

 幼い "妹" だけが

 <手紙>

 の存在を

 知らされていなかった。




 ただ、


 「不審者に気を付けなさい」


 と忠告されただけだった。




 そんな "妹" も、娯楽に興じていた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 そんな "マグロ" の家族は

 ――誰も

 その廃棄されたばかりの手紙の

 <投函者の正体>

 を知らなかった




 ――まだ。




 以前手紙を届けに来て

 警察に注意された者

 ――自分の人生を捨てて

 ――美しい者を憎む者

 その人による仕業だと思っていた。




 その日、


 身近な人間が

 <誹謗中傷>

 を送ったのだ


 とは

 誰も

 考えていなかった。




 思いも――寄らなかった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "父親" と "母親" の会合が終わり

 ――子供達は娯楽を中断し

 家族揃って

 夕食を始める――




 いつも通り。




 栄養学的に計算された食事。




 美味しさを無視した餌。




 皆にシェアされる

 ――”将来への投資”

 ――という名の

 犠牲。




 中でも、

 "マグロの姉" が食べる量だけ

 ――姉妹たちのものとは異なり……

 極端に少なかった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 前シーズンを好成績で終わった結果、

 取材を受けて

 世間の目が "マグロの姉" に向く様になると、

 体形の変化が指摘される様になった。




 「痩せ過ぎ!」




 成長期の子供の頬がふっくらすると

 ――今度は


 「デブ!!」




 男女平等の時代であるから、

 それらは

 女性だけに投げかけられる言葉

 ではなかったが

 ――男だろうが

 ――女だろうが

 気にする者は気にする事柄なのだろう。




 知性のない者が考える事は

 ”食事”と”体型”と”性”。




 "マグロの姉" は

 ――”重力スケート”選手としては………

 太っていなかった。




 それでも

 ――体形維持という名目で

 ――必要以上に

 食事制限をしていた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロの姉" は、

 妹たちの食べる量を

 見ない様にしていた。




 家族全員、その

 <見ないようにする意志>

 に気がついていた。




 そして

 ――それに対し

 どうする事も出来なかった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 そんな家族は、どうする事も出来ないのだ……――




 間近に迎える

 <”重力スケート”の地方大会>

 そこで起こる

 <不幸>。




 それに対し…――




 どうする事も出来ないのだ。




 ―――――――――――――――――――――――――



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