荘厳なる少女マグロ と 運動会
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"マグロ" は
――"姉" が汗を落として
――帰り支度を整えるまで
待った。
"母親" と
三人一緒に帰るのが
日課なのだ。
"妹" の方は、"マグロ" の父親が迎えに行っている。
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"マグロ" は時間を潰す為に、
同世代の選手と、
話した。
自身と同じ様に
兄弟姉妹が<ジュニア>や<シニア>クラスにいる
競技者たちと
何も生産性のない情報を
交換した。
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”重力スケート”を習う子供は、
その兄弟も
同競技を行う
確率が高い。
勿論、
年齢と競技実績によって、
続ける長さは変わって来るが…。
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"姉" が支度を終える。
"マグロ"達 は、練習場を後にする――
徒歩で。
外は、完全に、暗くなっていた。
入口兼出口を出るや否や――
突然――
「キィィィィィン!」
――と耳を劈く音。
"マグロ" は、耳を手で押さえた。
空を見上げると――瞬く<何か>。
それは星と違い……――
星間を縫う様に――
空を流れていく。
流れ星ではない――
戦闘機が飛んでいるのだ。
それも――低く。
西に向かって――二機。
"マグロ" が隣りを見ると、"母親" が顔を顰めていた。
"姉" は――涼しい顔。
耳を見ると――耳栓。
"マグロ" は、
<いつもの事だ>
という言葉を
――頭の中
形作らなかった………
――将に
――いつもの事だから。
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"マグロ" の暮らす国は、
他国の戦闘地域に”ドラフト”者を送っていた。
が、
他国との間に
深刻な戦争状態は
なかった。
それでも――
戦闘機は
毎日
上空を飛んでいた。
"マグロ" は
――兵器を落としてこない
――攻撃をしてこない
戦闘機が
「何故飛んでいるのか?」
わからなかった。
ただ――危険を覚えないだけ。
戦闘機が”危険”というイメージに直結した事はない――
まだ。
平和なのだ。
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駅に着き、”トランスポート”に乗った。
帰り道、
"母親" は、
”喋り通し”
であった。
"マグロの姉" の演技の
「どこが良い」
「どこが悪い」
と指摘を続けた。
語彙が足らない為に――抽象的指摘であった。
姉は
聞いていない様で、
専門家でない者の意見を
聞いていた。
ただ……――
"姉" は突然、
隣りで無言のまま
外の風景を眺めていた "マグロ" に
話しかけた:
"マグロの姉":
「今日、喧嘩したんだって!!?」
それを聞き、"母親" が見た
――"マグロ" を。
"マグロ" は
――最初
自分に話しかけられているとは
思わなかった。
だから――
"マグロの姉":
「ちょっと!!!――聞いてるの!!?」
と小突かれた時
――初めて
注意を向けた。
"マグロ":
「[喧嘩の事] 誰から聞いたの?」
"姉" は即答する――
"マグロの姉":
「お母さん」
さらに――
"マグロの姉":
「○○君 ["少年" の事] と掴み合いの喧嘩したんだってぇ!?」
知っている事を示した "マグロの姉" は、笑っていた。
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「内緒だよ…」
と言って
秘密を守る様に強いる者が
先に
秘密を秘密でなくする事は
よくある事。
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"マグロ" は詳細を話した。
自分の都合の良い部分だけ話し、
都合の悪い部分は排除する。
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