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荘厳なる少女マグロ と 運動会

 ―――――――――――――――――――――――――




 「クラインの壺」


 とは何か?




 ―――――――――――――――――――――――――




 先ず――スピンジャンプ(SJ)をする。




 起立姿勢のまま開始(離石)し、

 起立姿勢のまま着石する。




 [ジャンプ(SJ)の最中、

  身体を

  ――棒の様に…

  縦一直線にする] 




 これが基本だ。




 <クラインの壺>


 は、上の様な

 基本的スピンジャンプ(SJ)と

 ――ほとんどが

 同じであるが、


 <着石の方法>


 が、異なる。




 ジャンプ(回転)している途中で

 片足だけを前に出し

 ――その投げ出された足に

 ――身体全体を収斂していく様に……

 ――バレエ『瀕死の黒鳥』の最後の様に………

 身体を小さく畳み

 ――プロペラの様に

 回る。




 そこから着石まで

 ――片足だけを伸ばしたまま

 回転を続け、

 伸ばさない方の足で着石した時

 ――決めのポーズを取らず

 そのまま

 ”シットスピンに移行する”

 という代物だ。




 いうなれば、


 <クラインの壺>


 とは、

 ”スピンジャンプと

  フライングシットスピンを

  混ぜたような技”

 だ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 因みに、あの

 ”クラインの壺”

 とは何も関係がない。




 最初にその技を為して

 認定された人間の名前が

 「クライン」

 だった為に

 ――連想から

 そう呼ばれる様になっただけだ。




 [片足を前に出して

  横から見ると「ト」の形のまま

  プロペラの様に回っているさま

  「<壺>の様だ」

  と言い張る者もいるが、

  こじつけもいい所だ

  ――ただ

  ――言語の性質というものは

  ――べて

  ――その様なものであるのだが]




 ―――――――――――――――――――――――――




 「クラインの壺」。




 その技を

 ――ノービス

 ――のみならず

 ――ジュニアでも

 ほとんどの選手は

 成功させる事が出来ない。




 世界的な状況で謂えば


 「誰も出来ない」


 という表現が適切である様に思われる程、

 技を成功させる者は

 少なかった。




 シニアでも――誰もやっていない。




 <シニア>では

 ――勿論

 その技を出来る者がたくさんいて

 実際の成功例も多々あるが、


 ①落石(石を踏み外して地面に落ちる事)の危険性の高さと


 ②それによって発生する大量の減点


 この二つが理由で

 ――試合では

 誰もチャレンジしていない。




 キャメルを入れる者はいる。




 簡単で――確実だから。




 [因みに


  <クラインの壺>


  は

  ジャンプの着石パターンの中でも

  ”二番目に難易度が高い技”だ。


  その加点率も

  ――着石パターンの中で

  二番目に高い(加点率は120%)。


  よって、

  ・ジャンプ離石時のエッジの角度から得られる加点

  ・ジャンプ中の腕(足)の位置ポーズの加点

  ・軸の一定率

  ・着石時のエッジ角度の加点

  等を含めた上で

  選手が


  <クラインの壺>


  という大技をやると

  点数が

  雪ダルマ式に膨れ上がる事は

  言うまでもない]




 そんな技こそが――少女 "マグロ" の必殺技だった。



 

 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロ" が、

 初めて

 ――三回転ながら……


 <クラインの壺>


 を見せた時、

 "コーチ" は

 何も褒め言葉を

 与えなかった。




 寧ろ――苛立っていた。




 自分が現役時代に出来なかった技だから。




 "コーチ" は、

 "マグロ" に

 その技を行わない様に

 要求した。




 "コーチ":

 「成功率が低いでしょ!」




 "コーチ":

 「落ちて怪我したらどうするの!!?」




 "コーチ":

 「それに…――角度が足らないし……」




 "コーチ":

 「そんな事を練習する暇があったら

  柔軟と表現力に力を入れなさい!!!」




 "コーチ":

 「何より………――美しくない!!」




 "コーチ":

 「あなたにはまだ早い!」




 "コーチ":

 「あなたはもっとスケーティングを鍛えなきゃ!!」




 "コーチ":

 「とにかく、まだ早い!!!」




 "コーチ":

 「身体も出来上がっていないし!!」




 アドバイスという名の――”邪魔”。




 幸いな事に――




 [そうだ……――<幸い>な事だ…]




 "マグロ" は、

 "コーチ" の言う事を

 聞かなかった。




 諦めない性格であった。




 実際、

 "マグロ" と同じノービスクラスでは

 ――世界レベルで

 成功例が記録されている。




 一人だけ。




 東欧の大国で。




 ニュースにもなっていた。




 "マグロ" と同じ歳の少女が成功させた技。




 それこそが――




 「クラインの壺」。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロ" は挑戦する事を望んでいた……

 ――ただ "コーチ" は

 ――生徒が挑戦する事を

 ――望まなかった。




 お花畑を気紛れに飛ぶ紋白蝶の様に


 「ひらひら」


 演技を手で誤魔化し

 ――無難な技に終始し………


 <芸術点>


 を稼ぐ事を求めていた。




 結局

 ――そのシーズン

 "マグロの親" と振付師が

 "コーチ" を説得する事で、

 "マグロ" のプログラムの中

 四回転SJトゥーループ(単発ジャンプ)の最後に


 <クラインの壺>


 を入れる事は


 「渋々……」


 認められた。




 ただ、

 "コーチ" と "マグロ" の間には

 浅い溝が出来た。




 "マグロ" は、教師を嫌う事はなかった

 ――寧ろ "コーチ" を尊敬していた。




 ただ、


 "コーチ" は、


 "マグロ" を嫌った。




 ”感情的に”嫌った。




 命令を聞かないから。




 自分が出来ない事をやっているから。




 ―――――――――――――――――――――――――




 低レベルが――高レベルを好きになる事はない。




 努力しない人間が、する人間の後押しをする事はない。




 下卑た輩が、崇高なる者を賞賛する事はない。




 高レベルが大勢に賞賛されている時があろうとも――


 それは

 <優れた者の実力>

 故にではなく、

 高レベル者の

 <性格>

 が

 大勢にとって都合が良い

 ――将に


 ”謙虚であるから”


 である。




 どこでも同じだ。




 文学や小説――ライトノベルだって同じ。




 人文学は、

 挑戦しないで

 ――過去の

 ――誰かの

 焼き増しをする事で

 賞賛される場所だから。




 「読み易い!」


 という

 知性がない者にとって消化しやすい

 粥の様な話を

 誰もが賞賛し


 硬く

 努力しなければ噛めない様な難解な技は

 ――そうであるが故に

 避けられ

 嫌われる。




 勿論、

 そこに

 間違っている事は

 ない。




 何も間違っていない。




 実力が有るなら、


 「大勢の無能から賞賛を受けよう」


 「レベルの低い者に理解されよう」


 と望む事自体が

 間違っている。




 努力し、挑戦しようとする者が

 攻撃され

 ――弾かれるのは

 当たり前の事である。



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