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荘厳なる少女マグロ と 運動会

 "青年" は

 ――滑りながら

 ハミングをしていた。




 「…アンポルテ

  フォワイェ……」




 そのまま、


 「ふ」


 と、隣りを見る。




 <妖精>がいた。




 微笑んだ。




 "青年" は、微笑み返した。




 真顔になった。




 "マグロの姉" は、スピードを上げた。




 他の選手を――縫う様に追い越していく。




 "青年" に背を見せていた。




 汗で濡れた髪が

 ――縺れたまま

 靡いて見えた。




 "青年" は

 ――引きずられる様に

 見ていた。




 "マグロの姉" は、身体を折り――尻を突き出した。




 そのまま全身を斜めに傾けて

 ――”重力ストーン”を踏んだ足をクロスさせ………

 コーナーを曲がって行った。




 "青年" は続いた。




 鼻歌を歌い

 ――口遊む。




 その "青年" の背中を

 "マグロ" が

 見つめていた。




 "マグロ" は

 ――小声で奏でられる

 "青年" の歌を

 聞いていた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 精悍な顔付の "青年" が

 柔和であった頃。




 ドラフトされ、訓練をした。




 訓練を終え、配置が決定された。




 戦火にも

 ――短期間だが

 身を投じた。




 "青年" は、

 もともと優しい性格であったが、

 その<優しさ>は

 ――現実の前

 ――顔の肉と共に

 削られていた。




 <優しさ>が消滅した訳ではない――

 全てに向けられていた

 <優しさ>を

 出し惜しみする様になっただけだ。




 "青年" は

 危険の中、

 立ちはだかる邪魔を排除する為に、

 望まない事を

 ――何度も

 した。




 不合理が、上官からの命令である事もあった

 ――命令ではないが

 ――貴重な物を守る為に

 ――しなければならなかった事も

 ――在った。




 「やらなきゃやられるんだ!」


 「生きていく為にはしょうがないんだ!!」


 ――そんな言い訳を、"青年" はしなかった。




 単に、こなさなければならない作業が在った。




 何人もの仲間を救った。




 性格の悪い

 ――常に嫌味をくちにする

 同僚も救った。




 「救わない」


 という選択肢など、なかった。




 何人も――




 何人も――




 負傷者を運んだ。




 技術が進展しているから、

 重いものを担ぐ事が困難である

 という状況はなかった。




 ただ

 ――運ぶ間

 他人の苦悶アングイッシュを見る事は

 耐え難いものだ。




 それに対し、何も出来ないのだ。




 作業がある――




 ただ、

 治療してやる事は出来ない。




 身代わりになる事も出来ない。




 戦場にいて

 肉体を

 ――それほど

 傷つけられる事がなかった "青年" は、

 <悩む>という事が


 「贅沢だ」


 と思っていた。




 敵の悪意の結果として齎される

 <激痛>

 に比べたら、


 「何でもない」


 のと同じ事だ。




 少なくとも――動けるのだ。




 自由に――動けるのだ。




 心痛など

 ――それに比べたら

 何だと云うのだろう。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "青年":

 《……そのまま#五回転五回転#に入って…

  ――いつもストーンに加速を付け過ぎると落ちるから

  ――落ちない様に……。


  前に失敗したミスは二度と繰り返すなよ………

  ――自分。


  自分!!!


  ……で――

  すぐにストーンをキャッチして

  ――#デリエール#で

  #マクースタ#…》



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