荘厳なる少女マグロ と 運動会
横たわったまま。
「どうしたの!?」
「大丈夫なの!!?」
倒れた少女の母親が…
――少女に
――覆いかぶさる様に……
床に膝を付き、
声を出していた。
"倒れた少女の母親" の膝の下で――
「Pun」
――と
――周囲には
――聞えない様な
小さな音が
した。
"倒れた少女の母親":
《あ………》
<何かを踏んだ>
そんな気がしたが、
"倒れた少女の母親" は
気のせいだと思ったし……――
《ゴミだろう…》
――そう思ったし……
――何より………
その時に
<注目しなければならない物>は、
それでは
なかった。
"倒れた少女の母親" は、
倒れた娘の
俯せボディを
揺すった……――
同じセリフを
繰り返しながら。
"倒れた少女の母親":
「誰か…――
娘が!!!
急に倒れて……――」
"通行人2" が
宙に
手を上げた。
指で
医務室に
連絡した。
※監視用の人工知能が
既に
倒れた少女の姿を確認し、
連絡を送っていたが、
善意の市民の行動は
無駄とは
見做されない。
"倒れた少女の母親" は
娘を
仰向けにしようと
した。
傍にいた
"通行人3" が
気配を知って、
手を差し伸べた。
"倒れた少女の母親" は
仰向けになった娘に触れながら、
娘の名前を
呼び続けていた。
"倒れた少女の母親":
「返事して!!」
"倒れた少女の母親"
「返事して!」
少女は
答えなかった。
宙を見る目は
ブランクだった。
そして………――
痙攣していた。
自分の尻尾を追いかける
猫の様な
動きだった。
腹部を中心として、
全身を
風車の様に……
――時計の様に…
回転しようとする
動き。
放置すれば
その動きを
具体的に
確認できるのだが、
"倒れた少女の母親" が
そうしていなかった為に
見え辛くなっていた。
"通行人2" が
指を動かしながら……――
"通行人2":
「今
救護班に
連絡を
取りましたから、
すぐに来ると
思います」
そして………――
"通行人2" は
指を
収めた。
それから……――
"倒れた少女の母親" を
見た。
"通行人2":
「揺すらない方が…――」
"倒れた少女の母親" は――
「hat!!」
――口を開けたまま、
他人の注意を
聞いた。
"倒れた少女の母親" は
<専門家でもない者が
危険な状態にある者を
――勝手に
動かすべきではない>
という
よく知られた判断を
思い出していた。
だから、
声だけを
娘に
与えるようにした。
その時、
"倒れた少女の母親" は、
通行人に
感謝の言葉を
与えなかった。
家族以外の他人に
関心を
持っていなかった。
ただ……――
大切な者の手を
握っていた。
異変を
見つめていた。
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野次馬が
集まっていた。
野次馬は
引き寄せられていたが、
現象に
距離を取っていた。
ただ………――
見ていた。
<観客席>にも
気づく者が
現われている。
それらも――見ている。
少女の周りには、
サークルが
出来ている。
見るけれども
巻き込まれる事を
避ける者があける
”穴”。
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”重力スケートの選手”である
倒れた少女
そのコーチが
やってきて、
"倒れた少女の母親" と
目線を
揃える。
"倒れた少女のコーチ":
「どうしました?」
"倒れた少女の母親":
「娘がいきなり……――」
そして…――
娘を
見た。
少女は
横たわったまま、
痙攣して、
手を
左右に
――小刻みに
揺らしていた。
振動の振れが
大きくなっていた。
そして……――
唇の裂け目から
泡を
吹いた。
口端から――垂れ流し。
「bubble………」
「bubble……」
床を濡らす。
倒れた少女は
白目であった。
倒れた少女は
――以前から
貧血を主張する事があったから、
"倒れた少女の母親" は
その可能性を
探っていたが…
――その可能性に
――縋っていたが……
そうではない事は
――その時………
見て
明らかだった。
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