荘厳なる少女マグロ と 運動会
<重力スケート>の
”地方大会”が
開催されている会場では、
何も
#異変#は
起こらなかった。
どこか
遠い場所で
爆弾が破裂しても、
誰も
――何も
見なかった。
聞かなかった。
―――――――――――――――――――――――――
巨人の腹の中…――
地上では、
”重力スケート”
の男子ノービスクラスの
<キテイ>が
終わり、
女子ノービスクラスの
<キテイ>が
始まっていた。
出番を待つ "マグロ" は
地上に足を据え、
ストレッチをしていた……――
体の重さを
認識しながら。
―――――――――――――――――――――――――
地下にて、
"怪人" は
”代理人”として
仕事を
続けていた。
声の弱い市民の――代理人。
それを
ただ
見るだけの
"青年の友達" は、
相手に
<責任>を負わせたと思い、
<責任>を
”感じて”いた。
"青年の友達":
「すみません………」
謝罪を示す
つぶやきを
耳にし……――
"怪人":
「…何を言っているんだぁい……?」
さらに………――
"怪人":
「国民としてぇ……
当然のぉ…
勤めじゃぁ……
ないぃぃぃ………
かぁ……」
それは
本心では
なかったが、
"青年の友達" には
わからなかった。
"怪人":
「君がぁ…
謝るぅ……
必要は(わ)ぁ………
ないしぃ……――」
そして…――
"怪人":
「それにぃ……――
君にもぉ………
まだぁ……――
<仕事>
――がぁ…
あるぅ……」
"青年の友達" は
頷くつもりを
――強く………
認識せずに……
――その時…
反射的に
頷いていた。
実際に
認識しても、
具体的内容を
耳にしていない
その仕事が
何であろうと、
するつもりだった。
"青年の友達":
《借りがある……》
"怪人" には
貸したものは
何もない
にも関わらず、
"青年の友達" は
借りを
”感じて”いた。
さらに………――
結果から見れば、
<責任>を
肩代わりしてもらった
という
”借り”どころか、
"怪人" によって
多大な損害を
もたらされる事に
なるのだが……――
"青年の友達" には
わからない。
その時だった。
―――――――――――――――――――――――――
"青年の友達" に
”メッセージの到来”が
知らされた。
<何事か?>
と表情筋を動かした
"青年の友達" を
見て――
"怪人":
「そろそろぉ…
来たぁ……
かぁい………?」
"青年の友達" は
メッセージを
見ようと
した。
送信元は
コード化
されていた……――
が、
読めば
すぐに
どこから来たのか
わかった。
国が設置した
”諜報機関”
からだった。
メッセージには――
「”諜報機関”に
#善意の国民#から
<通報>があった事」
「<通報>の内容」
「情報提供者として
"青年の友達" の名前が
挙がっている事」
――が記されていた。
詳しい事は
記されて
いなかった。
"外国人" や "ライバルコーチ" の名前は
仄めかされてさえいなかったし、
<敵国>の事も
示されていなかった。
―――――――――――――――――――――――――
メッセージの文末には
確認フォームが
在った。
"青年の友達" が
<通報>に関して、
本当に
<情報提供者に
該当するか
どうか?>を
確認しようと
していた。
"怪人":
「確認フォームがぁ…
来ただろうぅぅぅ……?
君は(わ)ぁ………
同意をぉ……
しなければぁ…
ならないぃ……――
情報提供者ぁ………
としてぇ……
同意するんだぁ…」
"青年の友達" の目には
同意を促すボタンが
見えた。
―――――――――――――――――――――――――
"怪人" は
――その時
社会に於ける
”情報提供者”
としての
<責任>
について、
言及しなかった……――
敢えて。
それまで
"怪人" は
しつこいほど
<責任>について説いた
にも関わらず、
都合の悪い部分は
相手に
知らせなかった。
―――――――――――――――――――――――――
"怪人":
「”情報提供者”ぁ………――
それがぁ……
君のぉ…
仕事ぉ……
だぁ………」
"青年の友達":
「わかりました」
わかっていなかった。
愚直に
従っていた。
"怪人":
「情報提供者は(わ)ぁ……
匿名では(わ)ぁ…
いけないのぉ……
だよぉ………。
匿名では(わ)ぁ……
裁判にぃ…
なった時ぃ……
信憑性がぁ………
低いとぉ……
見做されるしぃ…――」
"青年の友達":
「構いません!」
"怪人" に
最後まで
言わせなかった。
"青年の友達":
「わかってますから!!」
"青年の友達" は
<同意のボタン>を
押した。
よく読まず……――
"青年の友達":
「送りました!!!」
"青年の友達" は、
海辺で
――初めて
砂の城を作った
幼稚園児の様に
誇らしげだ。
―――――――――――――――――――――――――
"怪人":
《K………》
"怪人":
「K……」
"怪人" は…
――その時……
――物事が
――うまく行き過ぎていて………
笑いを留める事が
出来なかった……――
"怪人" のプロット通りに、
事は
運んで
いないのだが。




