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荘厳なる少女マグロ と 運動会

 少女は、


 <恋>


 と


 <二つの”重力ストーン”>


 を抱きながら――




 リンクを見る。




 見ただけで

 ――休憩時間を挟み…

 スペースリンクが”クリア”になっているのが、

 わかった。




 ”アイススケート”に於いて

 ブレードによって削られたリンクの氷を

 なら

 事が必要とされるように――

 ”重力スケート”では、

 空間をクリアにする必要が在る。




 石が浮遊する間、

 運動によって放出された

 熱や電気がスペースに満ちると、

 石本来の


 <Λ(ラムダ)効果>


 が損なわれるのだ。




 "マグロ" が見た時、

 リンクでは

 既に

 ――幾人か

 選手が

 ――上空にて

 滑っていた。




 幾人かはまだ、地面にいて、お喋りをしていた。




 幾人かは、コーチの所に集い、話をしていた。




 "マグロ" は

 スペースリンクに

 足を踏み入れる。




 石を投げる。




 石に乗る。




 <Λ(ラムダ)効果>は

 ――完全に

 リフレッシュしていた。




 調子を見てから腰を落とし――浮遊する。




 そして

 ――幾人かが練習している水準ニボー目指して

 昇って行った。




 その瞳には――男が映っていた。




 "マグロ" より遙かに下

 地面を歩く男は、

 手を振り回してはいなかったし、

 眼鏡グラッシズも掛けていなかった。




 石を両手で掴んで、

 スペースリンクに近づいていた。




 精悍な顔立ちだった。




 見下ろす "マグロ" が、目指していたレベルに到達した。




 足の傾きを変える。




 石が

 ――宙で

 動き始めた。




 "マグロ" の視点から見て――前進。




 石は

 "マグロ" が身体を後ろに傾けると、

 加速した。




 加速しすぎない様に――バランスを取る。




 その時、ジャンプを練習している選手はいなかった

 ――皆

 ――続く全体練習に使う体力を温存する為

 ――慣らす程度の運動しか

 ――していなかった。




 宙を滑る "マグロ" は、地面に立つ "青年" を見なかった

 ――わざと見ない様にしていた。




 ただ――考えていた。




 その日に終わった "少年" との<恋>の事など

 ――もう

 思い返しもしない。




 その日の出来事

 ――"少年" との<喧嘩>

 を、思い返しもしない。




 "青年" についてばかり、考えていた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 その "青年" は

 ――長きに渡り

 "マグロ" の知り合いであった。




 "マグロ" が

 ――「"姉" が練習しているから」

 ――という理由で

 その競技を始めた頃から、

 "青年" は、そこにいた。




 そんな "青年" には

 ――以前まで……

 <柔らかさ>

 が在った。




 柔和な顔立ちで、

 柔らかな物腰

 ――そして口調。




 "マグロ" にとって "青年" は

 ――ずっと

 親戚の様なものだった。




 話をしない事もない………――ただ、付き合いはそれ程ない。




 "マグロ" には、遊んでもらった記憶がない。




 親同士も、仲が良い訳ではなかった。




 それまでは――恋などなかった。




 好きでも嫌いでもなかった。




 何年か前、

 "マグロ" と同じ練習場に通う同僚のひとりが

 <"青年" に片思いをしている>

 という話を聞いた。




 結局、

 <その恋が実ったかどうか>

 は、耳にしなかった。




 興味があまりなかった――




 当時は。




 そして

 ――"マグロ" に興味を持たれないまま

 "青年" は

 ――いち時的に

 "マグロ" の前から

 消えた。




 そして……――"青年" は、戻ってきた。




 "青年" は、”ドラフト”されていたのだ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロ" が生活する国は、争う事を求めていなかった。




 ただ

 ――他国との関係の悪化から

 <徴兵制>が導入される事となった。




 大勢が召集され、

 訓練を開始し、

 戦いがあれば――戦地に派遣される。




 それは徴兵制度だが、

 <徴兵>という言葉は使用されず、


 <ドラフト>


 と呼ばれていた。




 意味は同じなのだが、

 <ドラフト>は

 野球における<選抜>という意味で

 ――主に

 使用されていた単語であり、


 「ネガティブな印象を与えないだろう」


 と考えられていた。




 因みに…

 ――言うまでもない事だが……

 社会は<男女平等>を謳っているから、

 ドラフトされる比率は”男女半々”だ。




 年齢も理由にはならない

 ――誰もが皆、平等に機会が与えられる。




 特別扱いはない。




 昔は


 「そうではなかった」


 という。




 特に――女の場合。




 その昔、

 女性の社会進出が妨げられていた事が

 歴史書に記されている。




 その頃は、

 家庭的役割のみを求められていた女が

 兵士として求められる事は

 少なかった。




 段々

 女性が社会にて活躍し始める様になり

 ――活躍すればするほど………

 男性と同じ程度に<責任>が求められる様になる。




 必然的に――女性に対する社会的要請も多くなっていった。




 そして


 「国に徴兵ドラフト制が必要である」


 という決定が下されると、

 女性の登用も

 ――男性と同じ程度に

 <当たり前の事>

 とされた。




 「か弱いから」


 という理由は、論外とされた。




 その性に

 ――屡

 発生する


 「体調が悪い……」


 という主張は、


 「責任逃れだ」


 と見做された。




 責任が義務となる時代――


 男が身体を鍛えるのと同じ程度、

 女も肉体鍛錬が要求されていた。




 勿論、性差による身体能力の差は指摘されている

 ――それを反論する論文を見つける事も可能だが…

 ――それを上回る性差間の肉体的能力の平均差を

 ――科学的に指摘する論文の方が数が多く

 ――支持者も多いのが現状だ。




 それでも――関係がなかった。




 既に

 ドラフト制がその国に導入される前から、

 兵士としての女性の例は在った。




 そして

 ――女性の権利拡大と同時に

 ――自ら志願して

 ――兵士として

 ――活躍の場を求めた

 女性は皆

 <役目と責任>

 を果たしていた。




 <女だから>

 という理由が通用する時代

 ではなくなっていた。




 昔と違い

 戦いは

 ――多くの場合

 肉弾戦ではない。




 兵士に求められるのは格闘能力が主ではなく、

 道具の操作能力である。




 情報戦で先手を取る為の知性である。




 <女だから圧倒的に不利>

 と云う事はないのだ。




 勿論、

 過去の女性観にしがみ付く者は

 ”か弱い”女性の特別待遇を求めた。

 (その時、か弱い男性の特別待遇は求めなかった)




 ただ――要求を通す事は難しかった。




 既に同じ女性である兵士が、

 男性と同じ事をする

 そんな具体例がもう在るのだ

 ――それも、大量に。




 最早

 性を理由としたドラフトの免除を哀願しても、

 説得力などない――




 そんな時代だった。




 誰もが平等にドラフトされる世の中なのだ

 ――"青年" も例外ではなかったし……

 ――少女 "マグロ" や

 ――"マグロの姉" も

 ――例外ではないのだ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "マグロ" が恋した "青年" は、

 スポーツの経験を買われ、

 ドラフトの筆頭的対象とされた。




 スポーツで極めて優秀な成績を収める者は

 ――特別措置として

 ドラフトの適用外とされるものだ。




 ただ

 "青年" の成績は、

 それ程まで

 ではなかった。




 "青年" は、求められた義務を果たそうとした………

 ――本人が望んだ事ではなかったが。




 そして――

 柔和を失い、


 <精悍さ>


 を手に入れる

 結果となった。



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