荘厳なる少女マグロ と 運動会
大勢は
泣く者を
見て
いなかった。
<スペースリンク>
で行われている
<競技>
と
<競技者>
に
夢中だった。
負け犬は
関心の
外なのだ。
目を
一瞬
留める者が
いても…――
憐みの
持続時間は
短い。
それで……――良いのだ。
期待すべき事は
何も
ない。
―――――――――――――――――――――――――
ただ………――
"マグロ" だけは
例外だった。
見て、
目を
離さなかった。
自身の順番を待つ
"マグロ" は、
"クローン" の肩を
見つめていた。
顔は隠されていたが、
肩の上下運動は
隠されて
いなかった。
疲れ
汚れて
蹲った
”野良犬”
が喘いでいる――
その様に
見えた。
"マグロ" は
見ないフリを
しなかった。
揺れ動く者を
その目で
見ていた。
対象を
拡大しない……――
縮小しない。
そのものを
そのまま
見ていた。
―――――――――――――――――――――――――
嗚咽は
すぐに
止んだ。
"クローン" は
袖で
涙を拭い、
なかった事に
した。
そして…――
「ピューリファイ……」
――しなければならない事に
向き合う為に
顔を
上げた。
―――――――――――――――――――――――――
その時、
"クローン" は
"蜘蛛宇宙人" に
為る。
オリジナルの
"蜘蛛宇宙人" では
ない………――
"ジュネス・ルィェ"
ではない。
その時、
"クローン" は
単なるクローンでは
なくなったのだ。
<"蜘蛛宇宙人">
に
”成った”
のだ。
ゲノムなど
関係がない。
同じ血だろうが、
同じ遺伝子であろうが、
"怪人" は
いつまで経っても
"蜘蛛宇宙人" に
成る事は
ない。
名もない様な
一クローンが、
"蜘蛛宇宙人" に
成る。
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"蜘蛛宇宙人" は
濡れた袖を
払い、
周囲を
見る。
"マグロ" と
目が
会った。
"マグロ" は
会った視線を
外した。
ただ
すぐに
また……――
引き寄せられた。
"蜘蛛宇宙人" は
目を
逸らしは
しない。
見つめう二人。
そこに…――
「恋」
――は
なかった。
知的底辺層が
関心を寄せるそれより、
大切なものが
あった。
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"蜘蛛宇宙人" は
"マグロ" に
笑いかけた。
自嘲が
あったが、
嫌味は
なかった。
霞んだ――朗らかさ。
"マグロ" は
悪意を
見出さなかった。
ただ
"マグロ" は
その時に示すべき
<適切な表情>
が
わからなかった。
"蜘蛛宇宙人" に対し
どの様な反応を示せば良いのか
わからなかった。
笑みを
返すべきか
迷った。
結局、
何も
返さない。
そして
"蜘蛛宇宙人" は
腹を
立てない。
何も
求めて
いないの
だから。
ただ……――
"蜘蛛宇宙人" は
"マグロ" に
頷きかけた。
"マグロ" も
釣られて
頷いていた。
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