荘厳なる少女マグロ と 運動会
人間が現われて…――
順位が付けられる。
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"クローン" の出番が
来た。
"クローン" は、
自分の属する
”グループ”
への
<コール>
を
待っていた。
まだ
前のグループの得点が
出たばかりだから
待機しなければ
ならないのだ。
―――――――――――――――――――――――――
<元・敵国人>
の "ライバルコーチ" が、
"クローン" の傍に
いた。
<スペースリンク>
際で、
二人は
視線を
交わさなかった。
"ライバルコーチ" は
――"クローン" ではない
”他の教え子”
に
話しかけていた。
"ライバルコーチ" は……――
《考えている事が
よくわからない》
<無表情な>
――そんな
"クローン" を
<苦手>
としていた。
"ライバルコーチ":
《キモチワルイ………》
恐怖だった。
実際、
子供が
<反抗的だ>
と思い、
故に
他の子供に対して
図っている
便宜を
"クローン" に
適用する事は
控えていた。
[便宜は
平等に
与えられは
しない]
―――――――――――――――――――――――――
コールが
在った。
"クローン" が
動き出そうと
した。
"ライバルコーチ" は
”教えることで
生活費を
得ている”
という
<職業意識>
から、
教え子である
"クローン" にも
――手短に
――最低限の
アドバイスを
与えようとした。
"ライバルコーチ":
「いい?――」
動き出していた
"クローン" は、
動きを
止めた。
"ライバルコーチ":
「――ステップアウトには
注意して」
"クローン" は
頷いた。
"ライバルコーチ" を
見ようとも
しなかった。
いつもの事だった。
続けて……――
"ライバルコーチ":
「それと
踏切違反…――」
"クローン":
「いいえ」
毅然と――空を向いていた。
話の腰を
折られ……――
"ライバルコーチ":
「前にも
言った
けれど………――
あなたは
折角
出来るのに……――」
"クローン":
「いいえ。
その話は
終わりです」
最後まで
相手に
言わせなかった。
―――――――――――――――――――――――――
もう
何度も
何度も
平行線を
辿ってきた
議論なのだ。
"ライバルコーチ" は
”踏切違反を取られる位なら
レベルを落として
確実にするよう”
"クローン" に
アドバイスをし――
"クローン" は
レベルを落とす事を
拒否していた。
―――――――――――――――――――――――――
"ライバルコーチ":
「…ルールなんだから
従うべきでしょう?」
"クローン":
「いやです」
"クローン" は見た。
"ライバルコーチ" は――
《睨まれた》
――と思った。
故に
"ライバルコーチ" は
腹を立てた……――
"ライバルコーチ":
《こいつ………!》
――が、
収めて
見せた。
"ライバルコーチ" は
――たとえ
<敵国出身者>
であろうが、
”年長者には
――無条件に
尊敬を向けるべきだ”
という
――<"マグロ" の住む国出身者>
――も
――同じ様に
――持っている
普遍的偏見を
持っていた……――
が…
"ライバルコーチ" は
――同時に
自身が
大人であり、
<大人は
大人として
相応しい振る舞いを
すべきだ>
という
責任
”感”
を
持っていた。
相手は
子供
なのだ。
考えと行為は
一致しなかったが……――
"ライバルコーチ":
「そう………――
じゃあ
勝手に
しなさい。
どうせまた
落とされるんだから……」
"クローン":
「『それで
”良い”』
――って
何度
言えば
良いんですか?
ボクには
点も
順位も
どうでも
良いんです」
未来を
見ていた。
気取って
見えた。
"ライバルコーチ":
《ムカつく餓鬼だ…!!》
"クローン" と
同じグループとされた
選手達が
既に
スペースリンクに
入っていた。
"クローン" も
続こうと
した。
ただ、
その前に
"クローン" は
"ライバルコーチ" を
見た。
秋波。
穏やかだった。
そして……――言った。
"クローン":
「先生、
今まで
ありがとう
ございましたぁ………。
今日でぇ……
終わりです。
今までぇ…
すいませんでした。
でも……――
もう大丈夫でしょう?
あなたとぉ………
ボクは(わ)ぁ……
この後
<無関係>
になるんだから」
恨みは
なかった。
憎しみは
なかった。
"クローン" は
下を向いた。
そして、
襟元に付いた
”エトワール”
を
――手早く
外した。
"ライバルコーチ" の
教え子が
すべて
身に着けている…――
<星>。
"クローン" は
それを
放り投げる。
飛ぶそれは、
空中で
光ったが、
輝いては
見えなかった。
"ライバルコーチ" が
ピンを
キャッチして、
手に包み込むのを
見てから……――
"クローン":
「さようなら」
"クローン" は
競技の場へと
踏み出した。
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置いて行かれた
"ライバルコーチ" は、
何も言わない。
顔を背けた。
そして………――
遠ざかる者に
背を
向けた。
背の内側には
”感情”
が
在る。
"ライバルコーチ" は
<恨み>
と
<憎しみ>
を
抱いていた。
自分が
必死になって
守ってきた、
大切な
<取るに足らない事>
を
否定されたのだ……――
当たり前の
事だ。
"クローン" は、
"ライバルコーチ" が――
《守るべきだ!!!》
――そう
信じている…
――ずっと
――信じてきた……
<ルール>
に
”反逆する者”
なのだ。
「良い印象」
――を
抱く筈が
ない。
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