荘厳なる少女マグロ と 運動会
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"怪人":
《マ…ママン……。
わたしは(わ)ぁ………
あなたぁ……
だけをぉ…
信じますぅ……。
キョウダイをぉ………
守らなければぁ……
なりまぁ…
せぇんんん……。
邪魔があるならぁ………
排除しなくては(わ)ぁ……。
目的のぉ…
達成のx……
為には(わ)ぁ………
犠牲は(わ)ぁ……
つきものぉ…》
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その時だった。
地上で
ブザーが
鳴った。
ブザーは
地下には
鳴り響かなかった。
表層にだけ伝わる――ブザーの振動。
響こうが
響くまいが、
”重力スケート”
の
<地方大会>
の
始まりが
――世界に
告げられた。
音によって、
誰もが
”それ以前”
と
”それ以後”
その
区切りを
つけた。
ナレーションが在り……――
誰もが
受け入れていた。
注意して
聞く者は
誰も
いなかったが――
聞いていた。
試合は、
男子ノービスクラスの
<キテイ>
から
始まる
予定に
なっている。
会場には、
男子ノービスに
エントリーしている
――"怪人" の子供である
"クローン" が
――石を抱いて
スペースリンクに
向かう姿が
在った。
"マグロ" や "マグロの姉"、
そして
"鼈" が
スペースリンク際で
待機している姿も
在った。
その傍には
コーチ達。
関係者達。
家族は
<観客席>
にて
見守っていた。
その隣には――外国人。
思い――思い。
誰もが
自分と
自分の周辺の利益を
考えていた。
以上の情報を
一言で示すと………――
「ガヤガヤ」。
単純化された――
<思い思い>。
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地下では
会話が
続いていた。
"怪人":
「見るだけぇ……
見てぇ…
みようぅ……
かねぇ………。
調査は(わ)ぁ……
約束ぅ…
しないぃ……
けれどぉ………。
公開されたぁ……
情報をぉ…
見るだけぇ……
ならぁ………
わたしにもぉ……
出来るぅ…
からぁ……
ねぇぇぇ………」
それまで示されていた
”拒否”
が
――確実に
転じた事を
”感じ取り”、
"青年の友達" の胸にあった
<温かさ>
が
――さらに
育まれ
行く。
"怪人":
「それでぇ……
君は(わ)ぁ…
満足ぅ……
かねぇ………?」
"青年の友達" の顔は
輝いていた。
満足である事は
言葉なく
その場に
示されていた。
"青年の友達" は、
夢中で
頷いていた……――
よく考えも
せずに。
”GIVS”
の嵌まっていない
首。
他が傷ついていても――無傷な場所。
損なわれていない――前後運動。
草を食む
山羊の
様だった。
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放牧されながら、
境界線の内側から
出る事は
許されない動物。
柵を超えようとすると――処罰。
そして…――
柵の中を
自由に
跳び、
自由に
動き、
同じ山羊同士
交流して、
放牧者に
自身が
<従順である事>
を示す。
服従の報酬として、
与えられる
”おやつ”
を――
「……今か」
「今か………」
「まだか!?」
――と待っている。
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目の前の頷きを
見て、
"怪人" も
満足を
覚えていた。
"怪人" は
物事が
自分の
思い通りに
進んでいる事を
危険の兆候とは
思わなかった。
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