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荘厳なる少女マグロ と 運動会

 「孔雀の尾羽」(ピーコックステイル)


 が披露された後、

 その使い手である "マグロの姉" に

 注目が集まった。




 ただ、世間では

 ――まだ

 ――ほとんど

 その存在は知られていなかった。




 取材要請が来た。




 シーズンが終わり――


 "マグロの姉" は

 コーチと共に

 インタビューを

 受ける事にした。




 取材結果が発表された時、明らかになった事――


 "マグロの姉" の

 <美しさ>や

 <為した事>




 ――ではない。




 寧ろ、

 その性格に於ける――




 <強気さ>。




 別名を”生意気”という

 <謙虚さのなさ>

 が強調されて、まとめられていた。




 結果

 ――勿論

 反感を食らう。




 当たり前の事だ。




 大勢が賞賛するものは、

 実力ではないのだから。




 取材という事実の在った事が公表されたばかりの頃、

 余所余所しさが "マグロの姉" の周囲に

 ――以前にも増して

 漂っていた




 ――が

 すぐに終了した。




 怪文書が出回ったのだ。




 老若を問わず

 不特定多数の者が閲覧する環境で

 <美しさ>

 を示した "マグロの姉" のモラルに関して


 「いかがわしい点がある」


 という内容のテキストが出回った。




 学校にも送られたし、

 近所にも送られた。




 ”重力スケート”協会の

 支部や

 本部にも

 送られていた。




 ただ

 ――皆

 静観した。




 ”重力スケート”の選手にとって

 ――昔から

 当たり前の事であったから。




 最初は同情など、されない。




 無責任の者は誰もが言う――


 「自業自得」。




 ただ

 誹謗中傷が繰り返され、

 卑猥な形で盗撮された映像が出回ると

 周囲は見方を変えた。




 攻撃が止まなかったお蔭だろう――




 "マグロの姉" の周囲に生まれつつあった

 それ以上の反感の増加は、

 食い止められる形となった。




 勿論、なくなる事はない…

 ――敵愾心を強く持つ同僚は

 ――影で

 ――貶めようとし続ける。




 <美しさ>

 を手に入れる事の出来ない者は、

 影以外でも貶めようとする。




 努力もしないで。




 それでも――反感が倍加する事はなかった。




 勿論、

 "マグロの姉" は

 ――実力を発揮させた結果として

 ――付随して発生する

 ――”無能による偉そうな意見”と

 ――”嘘”に

 傷ついた。




 家庭内や練習場などで

 ひどく興奮する事があった。




 ただ、

 それは

 ――すぐに

 治まった。




 現象が

 <当たり前の事である>

 事を知ったのだ。




 誰もが通過する道なのだ。




 何より、覚悟が出来ていた。




 闘い続ける限り、無能による攻撃は、在り続けるのだから。




 "マグロの姉":

 「この前も

  トランスポートの中で

  盗撮されたんだよ

  ――変なヤツに。

  睨んでやったけど。

  わからないとでも、思ってるんじゃない?」




 "姉" は

 柔軟ルームで

 身体の関節が硬くならない様に努力しながら、

 同僚と話していた。




 笑っていた。




 朗らかに。




 まだ、脅威は<不安>を深刻化させていなかった

 ――怪文書は

 ――脅迫の形を

 ――取っていなかったから。




 "マグロ" が輪に加わった。




 少しして

 ”重力スケート”の選手たちは、

 話題を変えた。




 性的な話になった。




 「○○君

  ゼッタイ

  カノジョいるよね?」




 誰が誰を好きか。




 世界で勝ち進んでいる選手に、恋人がいるかどうか。




 誰と誰が別れたか。




 誰と誰が友達か。




 スケートの話は、一切しなかった。




 "マグロ" は、話を聞いていた。




 興味がない訳ではなかった。




 ただ――

 "マグロ" は

 "姉" の

 <身体の柔らかさ>

 を見ないフリをしながら――




 見ていた。




 "マグロの姉" も、それに気づいていた。




 "マグロ" には、姉との間に在る”差”がわかっていた

 ――ただ…

 ――どうすれば埋められるのか……

 ――わからなかった。




 "マグロ" に出来る事は、出来る事をする事だけだった。




 そんな "マグロ" の脇で

 話という花は、満開であった

 ――そんな時だった。




 "姉" の同僚が

 ――ひとり

 視線を外した。




 その選手が

 柔軟ルームの外を見るや否や

 柔軟の為の機械を解除して、

 身体を自由にした。




 隣りの子供も

 ――すぐに

 同じ事をした。




 "マグロ" も、気が付いた。




 コーチがやって来たのだ。




 "マグロ" は、時計を見た。




 まだ<全体練習>の時間ではなかった。




 ただ、時計から焦点を移すと、

 皆が急いで柔軟ルームから離れようとする姿があった。




 "マグロ" は、"姉" を見た。




 "姉" はまだ柔軟機を解除していなかった。




 "マグロの姉" は

 柔軟ルームから皆が

 ――重力ストーンを抱え

 ――必死になって

 出て行くのを見ていた。




 そして、

 部屋にいる者が少なくなってから――


 ボタンを押した。




 孔雀の尾羽が………――閉じられていった。




 膝と膝、

 踵と踵の間にある空間に、

 色は無かった

 ――模様も無かった。




 ただ……――


 <優雅>だけが在った。



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