荘厳なる少女マグロ と 運動会
勿論、
「孔雀の尾羽」(ピーコックステイル)
だけではない。
他の技でも
――加点をもらっていて…
"マグロの姉" は、
他の競技者を
――簡単には
寄せ付けなかった。
"マグロの姉" は、
ジャッジに好かれていた。
芸術点も
――同年代の他の子供より
高い評価が与えられていた。
”重力スケート”は
――特に……
<新人へのジャッジが甘くなる>
そんな傾向にも後押しされたせいか………
"マグロの姉" は
――前年度のサーキット初戦に於いて、
ジュニア戦
<初登場>
<初優勝>
の栄誉を授かった
――と云える。
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因みに、
その妹
――"マグロ"
は、身体が硬かった。
訓練に於いて、柔軟には力を入れていた
――それでも、硬かった。
姉が日常的に摂取している
関節を柔らかくする為に効果的な
<栄養補強剤>(不正なものではない)
を欠かしている訳ではない。
姉と同じくらい
柔軟運動に時間も取っていた。
それでも
――スプリットの場合……
"マグロ" は、
110度を維持する事が出来ず…
――それどころか……
――屡
減点対象となる演技をした。
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そんな "マグロ" は
――陸の上では………
常人よりも大きく開脚する事が出来た。
ただ
――重力ストーンの上
角度を付けてポジションを維持する事は
――"マグロ" にとって
極めて難しい事であった。
そして
そんな
――"マグロ" が不得意とする
<スプリット>は、
ジャンプの前の助走に組み込むと
ジャンプの点数が最も多く加点される技であった。
よって――避ける事は出来なかった。
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柔軟ルームに設置された
柔軟用の機械に体を嵌めた
"マグロの姉" は
――足を開きながら……
自信に満ち溢れて
見えた。
同席する者は皆
――誰も
――"マグロの姉" の様な
角度を持つ事が出来ていなかった。
"マグロ" が柔軟ルームに足を踏み入れた時、
"マグロの姉" は
――機械に柔軟運動の手助けをしてもらいながら…
お喋りをしていた
――幼い頃から一緒に練習してきた同僚と。
それらは<同僚>だ――話す事もある。
ただ――仲良くはない。
傍から見れば仲良く見えるかもしれない。
ただ――友達ではない。
友達にはなれない。
ライバルなのだ。
ライバルはライバルだ
――しかし、敵ではない。
競争心は勿論ある……――ただ、敵意がない。
それだけだった。
実力差は、はっきりしていた。
皆、知っていた。
それでも
――誰も
――何も
言わない。
言う必要など――ない。
そして――
同僚達は
――実力差を知っていても………
競技を辞める事はできない。
世界で戦う事が出来るレベルになくとも
――そこそこの成績を残せれば
学校の奨学金がもらえるし、
進学の為のチャンスも得られるのだ。
より良い未来――への期待。
その未来には――「最高」という展望が含まれていない。
代わりに――
「もしかして……」
が含まれている。
それは――宝籤の様なもの。
努力とは何も関係がない――妄想。
―――――――――――――――――――――――――
"マグロ" がいるその練習場には――
多くの者がやって来て、
多くの者が去って行った。
負け犬などいない…――ひとりもいない。
ただ――最適ではなかっただけ。
或る者は事故で怪我をして――競技をやめた。
或る者は体調を崩し――やめた。
或る者は得点に伸び悩み――コーチを変えた。
或る者は世界的に有名なコーチにつく為――国外に移住した。
或る者は自分の能力の限界を知ったつもりで――別の道を探った。
或る者は
親の豊かではない経済状況と
奨学金を得られない自分の説得能力のなさが絡んだ結果――
辞めた。
或る者は
――口五月蠅く
――頭の悪い
コーチのアドバイスに嫌気がさして――
切った。
誰一人として、
「練習が辛すぎるから……」
という理由で辞めた者はいなかった。
しかし――知らない者には、何も関係がない事だ。
努力もしないで、
意見だけは一丁前の者には、
わからない事だ。
―――――――――――――――――――――――――
どちらにしろ――大勢が去った。
それらが去った後も残り続ける者がいて――そこにいる。
そのひとりが "マグロ" である。
"マグロ" は
――重力ストーンを目につく場所に置いてから………
"姉" の作った人間の輪に近づいて行った。
近づくにつれ――そこで花開いている会話がクリアになる。
"マグロの姉":
「うっそ?
――そっちにも来た?
ホント、ごめんねぇぇぇ。
ホント、<性格暗い奴>っているよねぇ?
――変な文書送るなんて
――ホント…
――変態。
何が楽しいんだか……」