荘厳なる少女マグロ と 運動会
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ブザーが鳴った。
巨人
の内臓の中で、
音が
響いていた。
勿論――オルガンの様に。
和音でありながら――ひとつの音。
会場にいる
誰もが
”音”
と
”余韻”
に
――その人なりの
<意味>
を
見出していた。
そして…――
<壁の目>
が、
それを
見つめていた。
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”重力スケート”
の
<公式練習>
が終わり……――
見る者は
それぞれ
意見を
持つ。
"マグロの姉":
《ゼッタイ、オカシい!
「こそこそ」
隠れて
会わなきゃなんないん
なんて
オカシい!!
愛されてないのに
”あの女”、
あの人と
別れないなんて
ゼッタイ
オカシい!!!
結婚してるからって
何だっていうんだ!!
キレイでもない
愛されてない女が
守られているなんて
オカシイ!
誰だって、
若くて
キレイな方が、
好きなのに!!
あの人は
あたしの方が
好きなのに!!!》
"マグロの父親":
《………この世は
何か
間違っている……。
まだ
未成年の少女に
大人が
手を出すなんて…》
"マグロの母親":
《……世の中、間違っている………。
ちょっと
”オカシかった”
頃の事が
――いつまでも
付きまとってくるなんて……――
誰だって間違えるのに!!
”あいつ”
が死んだのなんて
自業自得…――
わたしは悪くない!
戦争状態にあったら
生きるか死ぬかなんだ!!
なんで
いつまでも
死んだ人間の事を
「ぐちぐち」
「ぐちぐち」
考えなきゃ
なんないんだ……。
ちょっと負け犬が死んだだけ………――
あたしは悪くない!!!
それに……――
”あいつ”。
ちょっと軽く当たったのを
「殴った!!」
って――
「ねちねち」
「ねちねち」
いつまでも…――
いつまでも。
もう
二度と
「会わない!」
って 思ったのに……――
あのストーカー野郎。
ホント
”あの男”
性格悪いよ!!
殴り返して来れば良かったのに、
しなかった自分が悪いんだろ!!!?
女に殴られるなんてバカ!!
気持ち悪いんだよ………》
"青年":
《……何かが間違っている。
戦争が続くなんて…》
"青年の友達":
《世の中、間違っている!
オレだけ傷ついて、
そんで
テロリストが
<[世界軍事] 裁判>
で
”無罪放免”
になるなんて
間違ってる!!
オレだけ撃たれ損じゃねぇか!!!
たく……征圧位、
ちゃんとやれよ!!
訓練校時代から
誰だって
口を酸っぱくして
「手順を間違えるな!」
「きちんとしたプロシージャ―じゃなきゃ
犯罪者が檻から出る!!」
って注意されるのに………。
世の中、使えねぇ奴等ばっかだ!!!
”あいつ”
だって、
ゼッタイ
なんか
企んでる……。
”あいつ”
は
ゼッタイ
”あの時”
の…》
"コーチ":
《この世は間違っている!!
あんな元・外国人が
――大した事もしてないのに……
みんなに褒められてさ………。
昔から
点数でも優遇されてて、
今でも
優遇されるなんて……――
間違ってる!
間違ってる!!
みんな見る目がない!!!
――気持ち悪い!!
抑々、
敵国の人間が
国籍を取れるなんて
役人は
一体
何してるんだ!》
"鼈":
《ホントにフェアじゃない!!
わたしの演技だって
悪くないのに…。
それなのに、
ちょっと手が長い
あんな
大した事ない
”ブス”
ばっかり
褒められてさ……》
"ライバルコーチ":
《この世は間違っている!!!
あんな雌犬が
理事と付き合って
<点数稼ぎ>>
するなんて!!
わたしが
子供の頃は、
生きる為に
仕方なかった!
仕方なかったんだ!!
今はすごく恥じてる!!!
それに………――わたしは償った!!
たくさん味方を売って、
この国に貢献して
過去を償った!
でも、
あの雌犬は
別にわざわざ取り入らなくても
生きていけるのに!!
食っていけるのに!!!
殺される心配はないのに!!
それなのに
あの糞みたいなペドファイルと付き合って、
点数稼ぎするなんて!
それを見て見ぬフリするなんて、
この国は間違ってる!!》
"外国人":
《この国は間違っている!!!
世の中では
――ちょっと外に出れば
多くのヒトが
苦しんでいるのに、
ここでは
気楽に暮らせてるなんて
甘すぎる!!
間違ってる!》
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そして――例外がいた。
"怪人":
《世の中ぁ……
何もぉ…
間違ってぇ……
いないぃ………。
ありのままがぁ……
最高のぉ…
状態だぁ……。
「世の中、間違っている!!」
なんてホザくのは(わ)ぁ………
負け犬しかぁ……
いないぃ…。
”ありのまま”
の中でぇ……
勝てばぁ………
いいだけだぁ……。
コマを動かしてぇ…
追いつめればぁ……
<良い>
だけだぁ………》
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そして――例外の例外がいる。
二人いる。
"怪人" の息子である
"クローン" は
――ただ……
計算を
していた。
大量の数字が
頭で
渦巻いていた。
言葉は
単に
数字と数字を結び付ける
<接着剤>
でしか
なかった。
そして…――
"マグロ" は
腹痛
と
物憂さ
に
苦しんでいた。
それでも……――
<ジャンプがうまくいくかどうか?>
それだけ
考えていた。
飛ぶ自分だけを
頭の中に
思い描いていた。
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勿論、
例外の例外にも
不満はある。
しかし………――
矛先は
内側に
向かっていた。
自身の
<壁の目>
は、
”自分だけ”
を
見つめていた。
それは
<ナルシシズム>
ではない。
見つめる様は……――荘厳である。




