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荘厳なる少女マグロ と 運動会

 隣りの病室には、

 敵からの攻撃で

 神経を損傷し

 立ち上がる事が

 出来なくなった

 <負傷兵>

 が、いた。




 啜り泣いていた。




 "負傷兵":

 「…sick」




 "負傷兵":

 「sick……」




 "負傷兵":

 「ママン………」




 "負傷兵":

 「……ママ」




 それを見て

 ”ドラフト”

 から免れた、

 <か弱い>

 というが

 ”元気な”

 <通行人>

 が、思う――


 "通行人1":

 《マザコンってキモチワル!》




 何も為さない者が感じた事を

 大勢は

 <ひとつの意見>

 として

 尊重するのだ…。




 ―――――――――――――――――――――――――




 同時に

 映像が

 流れていた。




 それは……――花畑であった。




 花畑を見て

 人間が云う………――




 「なんて……美しいのでしょう」




 映像は――共有されていた。




 美的感覚は――シェアされていた。




 その

 緑が萌え

 色彩咲き誇る

 <花畑>

 の上で

 兵士が倒れ、

 運ばれた後も

 苦しみ続けている

 というのに、

 人の感想は

 ひとつ

 だけだ。




 古語には、


 「脳味噌、お花畑」


 という

 ”ディクション”

 があったというが…――


 言い得て妙だ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "青年の友人" は

 ベッドの上で、

 自分の片腕を噛み、

 空いたもう片方の腕を使い

 "青年" を

 掴んでいた。




 強すぎはしなかった。




 震えていた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 ただ……――


 "青年" は

 理解した。




 "青年" は

 目の前の行動が

 敵の攻撃ではない事を

 理解していた。




 クレンチは

 ――強すぎは

 ――しないが

 肉体訓練をしない

 <か弱い者>

 が


 「痛い!!」


 「やめて!!!」


 と歎くレベルの

 強さであった。




 それでも

 "青年" は

 ただ

 腕を掴ませていた。




 力の強さは

 生きている

 という事の

 証であった。




 "青年" は

 腕を掴まれている

 その瞬間が

 <”デジャビュ”

  である>

 と思った。




 戦場で

 同じ展開が

 あったのだ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "青年の友達" が

 攻撃され、

 追加攻撃が為されぬよう

 壁のある場所へ

 避難して

 救援を待っている間、

 "青年" は

 友人に

 ずっと

 腕を

 掴まれていた。




 そして………――掴む力が弱っていく。




 遠くで放電する音がする……――


 「ビビビビビ…」




 "青年" は、

 友人の身体を担いで

 歩き始めた。




 追撃があり……――身を竦める。




 それでも歩を止めなかった。




 救援を待っていた。




 長くは掛からなかった。




 そして………――




 場の

 征圧ルールにも

 時間は

 掛からなかった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "青年" は、

 一度目も

 二度目も

 友人の手を

 振りほどきは

 しなかった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 時間が経ち――収まった。




 "青年の友達":

 「ごめんな……」




 くち

 腕も

 自由フリー

 だった。




 "青年の友達" は

 笑っていた。




 "青年の友達" に

 謝られ、

 "青年" が

 申し訳なく

 思った。




 "青年の友達" は

 服を着ていたから、

 腕に残る

 歯型は

 見えなかった。




 唾液の跡があるだけだった。




 "青年の友達":

 「すぐ、マシになるから…。

  そのうち、良くなるから……」




 "青年" は

 深入りを

 しなかった。




 ―――――――――――――――――――――――――




 それ以降

 "青年" が病院を見舞う時、

 友人が

 変化を見せる事は

 なかった。




 以前と同じ会話をし、

 以前と同じ様な事で笑った。




 "青年" が

 ヒステリーを見たのは

 たった

 一度だけ

 の事であった。




 だから

 "青年" は、

 ”重力スケート”

 の大会がある時、

 "青年の友達" を

 誘った。




 "青年の友達" は

 許可がなければ

 外出できない

 と言った。




 許可は

 簡単に

 下りた――


 <付添い付き>

 という条件で。




 そして

 "青年の友達" は

 付添い人と共に

 会場に来たのだ。




 付添い人………――即ち、"怪人"。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "青年" は

 "怪人" から

 <ヒステリー>

 について

 ――前もって

 知らされていた。




 "怪人":

 『あんまりぃ……

  興奮させないでぇ…

  くれよぉ……。

  叫んだりは(わ)ぁ………

  しないだろうぅ……

  けどぉ…。

  安静がぁ……

  必要ぅぅぅ………

  なんだからぁ……』




 "青年" は

 頷いた――


 が、

 大袈裟だと

 思った。




 《大丈夫だろう》


 と予想していた。




 "青年" の目には

 異常には見えない

 "青年の友達" が、

 目の前で

 ヒステリーになるとは

 思えなかった。



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