荘厳なる少女マグロ と 運動会
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"青年の友達" は
戦争で
負傷し、
入院して
肉体の
――表面的
傷を
癒した…――
しかし、
神経の負傷は
癒えなかった。
元通りには……――
ならない。
”GIVS”
の助けで
日常生活に
支障はない。
それでも………――
悪化する一方。
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"青年" が
友達の為に
病院を
見舞った時が
あった。
”GIVS”
を着用して動く程の
回復レベルには
なかったから、
"青年の友達" は
ベッドに
横たわっていた。
"青年" から見て
<穏やか>
だった。
"青年の友達" は
友人を
ウェルカム
した。
"青年の友達":
「上半身は
もう
カンペキに
動くんだ。
筋トレも
始めてる。
前より
胸に
厚みが出た
くらい」
そして
”ドラフト”
時代から
話している様な事を
話した。
会話を通じて
"青年" は、
友達が――
《すぐに
また
昔みたいに
なる。
きっと
<良く>
なる!》
――そうジャッジした。
笑った。
次の瞬間。
突然
"青年の友達" が
咳き込んだ。
それまで
<馬鹿話>
をしていた
"青年" は
笑いながら、
友人の背を
叩いた。
"青年":
「大丈夫かよ!!?」
その顔から
笑いは
消えていなかった。
ただ……――すぐに消えた。
咳が止まっても、
"青年の友人" は
何も言わなかった。
顔が翳っていた。
"青年の友人" は…――
睨んでいた。
"青年" は
自分が睨まれたのだと
思った。
違った。
"青年の友達" の視線は
"青年" の背後に
落ちていた。
そこには……――
映像。
"青年の友達":
「ja!!!」
突然
奇声を上げると、
"青年の友達" は
口に
自分の手を
当てた。
"青年の友達":
「ja!!」
必死に
<叫び声を上げようとする自分>
を、抑え込んでいた。
感電したかの様に
痙攣していた。
友人の背を叩いていた
"青年" の手が
離れた。
"青年" は
辺りを見回した。
誰もいなかった。
<壁の目>
が見ているだけ。
"青年" は
友人と
距離を
取っていた………――
違う者と
同一視
しない……
――そして
――されない…
様に。
"青年の友達" は
友人の乖離に……
――突然
――生まれた
――距離に………
傷つかなかった。
最初から
傷ついていた。
"青年の友達" は
ベッドの上で
闘っていた。
戦場から遠く離れた場所で
ひとり
戦っていた。
敵は己ではなかったし、
特定の誰かでもなかった。
荒い息が
指間を
すり抜ける音がして……――
"青年の友達":
「…U」
"青年の友達":
「U……」
"青年の友達":
「………Uuuuu……」
"青年の友達":
「UUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!」
"青年の友達" は
自分の口を
マスクしていた
その手を
放り投げた。
関節があるから
遠くへ
跳ばなかった。
膝を強く叩いて
手は落下した。
"青年の友達" は
目を剥いていた…――
眼球が
ソケットから
飛び出そうな程。
"青年":
「お医者さん、
呼ぶか!!?」
"青年の友達" は
答えなかった。
顔色が変わった。
答える代わりに
"青年の友達" は
口を使って
自分自身の腕に
噛みついた。
そして……――呻っていた。
侵入者に噛みつく
番犬の様な
顔だった。
"青年" は
狼狽した。
しかし、
狼狽しすぎなかった。
戦場では
当たり前の様に
起こる
精神的
変化。
人間の――変化。
"青年" は
最初こそ驚き
パルスが速まったが、
目の前の
<状態>
を
受け入れいていた。
番犬の様な
<凶暴さ>
には、
慣れていた。
"青年" が
病院のスタッフを
呼ぼうと
コールボタンを
押そうとすると――
友人に
腕を
掴まれた。
病床の
"青年の友達" は
目を剥いて、
自分の腕に
噛みついたまま、
"青年" を
見つめていた。
睨んでいなかった。
縋ってもいなかった。
助けを求めていなかった。
"青年" は
友人の口癖を
思い出していた。
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"青年の友達":
『てめぇの尻拭い位
てめぇでしろ!!!』
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