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荘厳なる少女マグロ と 運動会

 ―――――――――――――――――――――――――




 "ライバルコーチ" は

 足を

 上げていた。




 そして…――




 下げた。




 踵を地に打ち付ける……――




 そして

 <爪先>。




 足首を回す。




 くうを蹴る様に………――突っ張る。




 反らされて、

 白鳥の首の様に見える

 爪先。




 後ろへ……――蹴り上げる。




 ―――――――――――――――――――――――――




 ゆったりとした…――動き。




 流動的な……――動き。




 トランジション………――たっぷり。




 ―――――――――――――――――――――――――




 そのさま

 準備運動の如し。




 足で

 拍子を取っている……――

 そのようにも

 見える。




 駅のホームに立つ

 バレリーナの様にも

 見える。




 異常な動きには

 見えない。




 その動きには

 規則性があった…――


 が、

 "ライバルコーチ" の動きに

 秩序は

 見られない……――


 単なる

 <重力スケートファン>

 の目には

 見えない。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "ライバルコーチ" は

 自分の足を見ていなかった。




 空中に浮かぶ

 静止画を

 見ていた。




 ただ………――




 見ながら

 見ていなかった。




 フォーカスは

 目に映るものに

 なかった。




 <観客席>

 には

 目を

 向けなかった。




 見ず、

 指を動かさず、

 足を動かし続けていた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 会場にいる大勢は、

 その足の動きを

 見ていなかった。




 見ても

 関心は

 すぐに

 他へ

 向いた……――


 欲の

 赴く

 ままに。




 ただ…――




 中には


 <例外>


 がいる。




 ただ……――




 "ライバルコーチ" の爪先を

 見続けている者が

 いる。




 それも………――熱心に。




 ”重力スケート協会”

 の協会員の中に……――


 ひとり。




 外国人の中に…――


 ひとり。




 評価されずに

 拗ねた

 "すっぽん" へ

 ――親の様に

 ケアを与えた……――


 "外国人"。




 観客席に座り

 膝に肘を付き、

 指を

 胸の前で

 組んで………――


 見ていた。




 "ライバルコーチ" を

 見ていた。




 他人には

 ――その人は

 <スペースリンク>

 で行われている

 <公式練習>

 を見ている様にしか

 見えない。




 ”宙を何気なく見ている”

 としか

 見えていない。




 ただ

 "外国人" は

 "ライバルコーチ" の

 足の動きを

 見つめていた。




 ぼんやり見ている様で

 はっきり見ていた。




 その "外国人" は、

 "ライバルコーチ" の足の動きが


 <暗号>


 である事を

 理解している。




 ダミーがたっぷり入り

 無秩序に見える

 足の動きは、

 ”意味”

 を示していた。




 それは……――




 「サクセンヘンコウ」




 「サクセンヘンコウ」




 「カンシノカノウセイアリ」




 「タイキメイレイ」




 「レンラクヲマテ」




 それらテキストは――


 <"マグロ" の母国にとって


  ”敵国”


  に当たる国で

  ――昔…

  使用されていた暗号>


 ――それによって

 組まれていた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "外国人" は、

 理解していた。




 ただ……――




 理解している事を

 公に

 示さなかった。




 「みんなとおんなじ」


 ――フリ。




 ―――――――――――――――――――――――――




 "外国人" は

 敵国人では

 ないのだ。




 <元・敵国人>

 なのだ。




 若い頃に

 移民として

 欧州に渡り、

 国籍を

 変えたのだから。




 ―――――――――――――――――――――――――



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