荘厳なる少女マグロ と 運動会
興味を持ちたくないのだから。
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"ライバルコーチ" が
アドバイスを切った。
"怪人" が話している事を
聞いていなかったが、
"怪人" が話している事には
気付いていた。
苛立っていたが、
苛立ちを見せなかった。
人間が尊ぶ…――自制。
仲間を売る為に
――生きていく為に
必要だった……――
抑制。
それと共に
"ライバルコーチ" が
"怪人" を
見た。
"ライバルコーチ":
「失礼ですが………――」
相手が
「邪魔である」
事を
明確に述べずに
述べて、
相手との対話を
打ち切ろうとした……――
その時。
"怪人":
「わたしは見ています」
突然、挿入された…――言葉。
外国の……――言葉。
言葉。
"ライバルコーチ" は
"怪人" を
見つめていた。
"ライバルコーチ":
「――………何か仰いましたか?」
動揺はない。
漣は――目に見えない。
"怪人":
「ところでぇ……
今日はぁ…
<外国>
からぁ……
お客さんがぁ………
たくさんんん……
いらしてぇ…
いますぅ……
ねぇ………」
"怪人" は
<観客席>
を見続けていた。
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それを
"鼈" が
見ていた。
"鼈" は
――ただ
大人の視線の動きを
目で追っていた。
"ライバルコーチ" は
"怪人" を
見ていて――
そんな "ライバルコーチ" に
見られている
"怪人" の視線の先……――
"鼈" は
眼鏡の度を
合わせた。
<観客席>
には
人が
いる。
疎らであるが…――集団。
熱心に
<スペースリンク>
を見る者が
いる。
そして……――お喋りをしている者がいる。
多くは――同国人。
その集団の中に
<外国人のグループ>
がある。
"鼈" が
挨拶を済ませた
外国人達。
"鼈" は
その中に
先程
――"マグロの姉" や
――”重力スケート協会員”
――などと一緒にいた時………
自身に
『あなたは大丈夫か?』
と
慰めを投げかけてくれた
その人の姿を
見つけた。
その人は
<スペースリンク>
を、見ていなかった。
"鼈" のいる方に
顔を向けていた。
"鼈" は
その人と
目が会った様な
気がした。
すると……――
その人物は
そっぽを
向いた。
最初から
見ていない事を
示すかの
様に。
"鼈" は
その人物と
目が会ったのは
気のせいだろう
と思った。
その時。
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"怪人":
「わたしは、あなたを、見ています」
"怪人" が
"ライバルコーチ" に
話しかけた。
脅迫じみていた。
笑顔は
なかった。
"ライバルコーチ":
《気持ち悪い話し方…》
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外国語で発された為、
"鼈" には
"怪人" が
何を言ったのか、
わからなかった。
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"ライバルコーチ" は、
自分が
<ボーダーライン>
にいる様に
思った。
"ライバルコーチ":
《あの頃……――》
国籍を変える前、
仲間の潜伏情報を売っていた頃に
いつも
立たされていた線――
命を賭けた、綱渡り。
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”怪しさ”
が
目の前に
在る。
だから、
"ライバルコーチ" は
警備
に通報しようと
思った………――
<国民>
として。
怪しい芽を
前以って
摘んでおく為に。
その時。
"怪人":
「では――失礼ぃぃぃ……」
素早く言葉が述べられ…――
"怪人" は
立ち去る。
消え去った。
退場は、春の雨の様だった。
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空間には
光が満ちて……――
すべてが可視対象。
揺れて………――見える。
そこに音として響くは――口笛。
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"鼈" が
"怪人" のいた場所から
視線を逸らすと――
"ライバルコーチ" が
睨んでいる
――その横顔
が、
見えた。
それまで見せた事のない様な
険しい顔で
"怪人" がいなくなった場所を
見つめていた。
その時、
"鼈" の抱く
不安の原因が
シフトした。
"鼈":
「――……大丈夫ですか?」
"鼈" が尋ねる番だった。
"ライバルコーチ" は
"鼈" を
見た。
顔付きは
和らいだが、
険しさが
残っていた。
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"ライバルコーチ" は
咄嗟に…――
「自分の心配をしろ!」
と言いかけたが……――
"ライバルコーチ":
「――大丈夫………」
――そう
短く
発した。
そして
<仮面>
の様な
”笑顔”
を向けた……――
”イルカピターノの仮面”。
目の周りが
固く
動かない。
それは
"怪人" がよくする顔付きと
同じだった。
そして
人間は
仮面から
表情を読み取るものだ――
感情を
視覚的に
読み取る事が
自分には可能だと
勘違いしている。
多くは
仮面の
<目力>
を褒め称える。
そして…――
仮面が担う役割の上で
人間関係は
出来ていて、
それによって
社会は
動いているものだ。
なんて――ロールプレイングゲーム。




