荘厳なる少女マグロ と 運動会
"ライバルコーチ" は
同国人を売った。
一度ではなかった。
"ライバルコーチ" を
同じ国出身の
<仲間>
として信じた
多くの者が
捕らえられ――
<世界軍事裁判>
へと送られ…――
判決を受けた。
そんな中、
<オリンピック>
があった。
スポーツの世界で
最高の栄誉を求める者が
行く場所。
"ライバルコーチ" の出身国が
<政治情勢>
と
<外交問題>
を理由に、
オリンピック派遣を
控える決断を下した……――
そんな時期だった。
不和は――終わりが見えなかった。
"ライバルコーチ" は、
オリンピックに出る為に、
国籍を変えた。
ずっと同国人を売っていたから――簡単だった。
仲間を売った事が
他の国で
”評価”
されたのだ。
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"怪人" の前で
"ライバルコーチ" は、
狼狽えた様子を
見せなかった。
当たり前だ………――
ずっと、スパイをしてきたのだ。
"ライバルコーチ" は、
何も言わなかった。
当たり前だ……――
都合の悪い事を言う筈がない。
"怪人" には、
解っていた。
それでも…――
"怪人":
「口さがない連中に対しては
”フリ”
をする必要があるかも
しれませんがぁ……、
わたしはぁ………
――そうではぁ……
ありませんからぁ…
――ね?」
"怪人" は笑った。
その時、
"ライバルコーチ" も
声を出して
笑った。
競う様に
笑った。
そこら辺の者には
見抜けない――
”作り笑い”。
その
<わざとらしさ>
の下で、
"ライバルコーチ" は
目の前の相手を
どうジャッジすれば良いのか
解らず、
次の一手を
探していた。
人の目には見えない……――
葛藤。
凪いだ海の下――
渦巻き。
単なる偏見が示されたのなら、
対処可能であった。
明確な形で現れた脅迫であるなら、
対処可能であった。
"怪人" が
<何を求めているのか?>
"ライバルコーチ" には
見えなかった。
"怪人" が
<何を
どの程度まで
知っているのか?>
わからなかった。
"ライバルコーチ" は
<観客席>
を見なかった。
"怪人" が見つめているのを
見つめていた………――
笑いながら。
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それらを――"鼈" が見ていた。
滅多に声を出して笑わない
"ライバルコーチ" が
声を出して笑った事に
驚いていた。
すべき事を忘れていた。
"鼈" は
――その時
二人の話している事を
理解していなかった。
外国語に
拙かったのだ。
少女には
"ライバルコーチ" の変化も
見抜けなかった。
余裕が――なかったのだ。
翻訳機を立ち上げて
盗み聞きをする余裕など
なかった。
周囲に対象があっても
自分の事で
手一杯。
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