荘厳なる少女マグロ と 運動会
"ライバルコーチ" が
"鼈" の傍にいる…――
その間。
<公式練習>
を終えた
"マグロの姉" が、
<スペースリンク>
から
出てきた。
そして……――
"鼈" のいる方角へ
歩き出した。
二人は近づいていた。
視線は――会わない。
笑顔も――ない。
わざとらしい
顔の背け方も
ない。
擦れ違った。
二人はただ………――
互いを意識していた。
背を向けても
――二人とも
振り返りは
しない。
―――――――――――――――――――――――――
"マグロの姉" が
控室に入ろうと
目的の場所に
向かう。
すると途上に……――
"怪人"。
"怪人" と目が会った。
"怪人" は少女に微笑みかけた…――
優しく。
その
<優しさ>
は……――
ディナーに
「鶏を食べる!」
と決めた
主が
吟味して選んだ――
<肥え太った鶏>
――まだ
――運命を知らず………
――鶏小屋を
――能天気に歩く……
――<それ>
――ワインに浸ける必要のない…
――若い……
――瑞々しいカラダ………
に向けられる
”穏やかさ”
に似ていた。
"マグロの姉" は
微笑みに対して、
微笑みを返した。
危険を抱かなかった。
妹の様には――認識しなかった。
手足が長い
背の高い
"怪人" に、
特別な興味を
持った訳では
なかった。
結局――見ず知らずの他人なのだから。
その人が与えてくるものは
好意的な大勢が向けてくるものと
同じなのだから。
何より "怪人" は
"マグロの姉" にとって
<大切なヒト>
ではなかった。
二人が
背と背を面する頃には、
"マグロの姉" にとって
"怪人" は
その他大勢を含む
<通りすがり>
になっていた。
見えるが……――透明人間。
ただ…――
"怪人" にとって
"マグロの姉" は
そういう存在では
ない。
―――――――――――――――――――――――――
"怪人" は歩き続けた。
そして……――
身体をほぐす
"鼈"
の傍に立つ
"ライバルコーチ"
を
見つける。
目が会った。
その時
顔を会わせる前に
――既に………
挨拶を済ませていたが、
"怪人" は
――その時
――律儀に
――深く
お辞儀を
した。
外国人の
"ライバルコーチ" も
お辞儀を
返した。
傾斜は浅かった。
"ライバルコーチ" は
"怪人" が
<どこの誰か?>
を
――すぐには……
認識
しなかった。
その日まで
"怪人" は
――その人の息子である
"クローン" の試合に
顔を出した事がなかったし、
練習を見学した事も
なかった。
練習後に
練習場へ
迎えに来た事も
ない。
"ライバルコーチ" は
"怪人" を知っていたが
”データの上で”
であった。
データと云えど、
<職業>
と
<資産の概要>…――
その程度。
顔を覚える必要のない対象であった。
"クローン" は
<キテイ>
で
”足切り”
される者なのだ。
"ライバルコーチ" の手駒の中でも
重要度の低い
生徒。
すぐに
消えて
忘れてしまうだろう
大勢の中の
ひとり。
ケルカンになる事はない……――オーカン。
モブキャラにとって、
”キーパーソン”
は………――
そういうもの。




