荘厳なる少女マグロ と 運動会
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”重力スケート”
の試合が行われる
”会場”
その大ザールでは、
<公式練習>
という場が
設定されていた。
そして…――子供達が宙に浮かんでいた。
石に乗って。
<スペースリンク>
にて、
子供達は
上下して
いなかった。
滑る様にして、
宙を
左右に
行き来していた。
互いに
<追いかけっこ>
をする様に
滑る……――
「Gurt」
「Gurt」。
そして
子供達
――即ち
――選手達
は
<スペースリンク>
の中、
人のいない
――石が飛んでいない
場所を見つけると――
ジャンプする。
ほとんどは
SJ [スピンジャンプ] を
行っていた。
"マグロの姉" も例外ではなかった。
薄着姿の "マグロの姉" は
その日、
調子が良かった………――
ライバル達が懼れる程。
試合が行われる少し前に
<重力ストーン>
を新調したのだが、
相性も
悪くなかった。
"マグロの姉":
《身体が軽い……》
"マグロの姉":
《軽すぎる!》
――今迄にない程。
シーズンの開始を
ベストな体調で
迎える事は
――シーズンを通して見ると
必ずしも
”最高のシチュエーション”
ではないが、
それでも
――その時だけは…
"マグロの姉" が
自身の
自信
を強化する
役には
立っていた。
"マグロの姉" が
四回転SJを跳ぶ度に、
ライバル達が
横目で
追いかける。
成功させると――そっぽを向く。
何度か
<"マグロの姉" の体調の良さ>
を見た後、
負けず嫌いの或る者が、
ジャンプに失敗した。
地へ、落ちて、行った。
誰もが見ていた。
ただ落ちきる様を見なかった。
競争者が落ちた事だけを知ると、
誰もが
見ないフリをして、
集中しようとした。
誰も集中しきれて
いなかったが……。
"マグロの姉" と
<公式練習>
を同じ時間に設定された
"マグロの姉" の同輩
も、ジャンプした………――
成功した。
ただ……――
足元が、ふらついていた。
着石して
滑りながら
顔を上げると、
"マグロの姉" と
目が会った。
同じ練習場に通うその同輩の少女へ
"マグロの姉" は
微笑みを投げかけた。
ただ
すぐに
微笑みを回収すると、
また
四回転SJを
跳んだ。
SJを三回転までしか跳べない
その
同輩の少女は、
口元にて
”作り笑い”
を表現し…――
見ないフリをした。
"マグロの姉" が
また
ジャンプを
成功
させた。
滑っている内に
少女の笑顔は
消えていた。
同輩の少女は
滑り続けた。
或時、
同輩の少女は
リンクの隅へ
行った。
石の加速を殺した。
そして
<キテイ>
の練習を
始めた。
同じ場所で
<重力ストーン>
を使って
半円を描く動作に気づき、
他の選手は
隅を避ける様にして
リンクを
滑る様に
なった。
滑走の輪が
狭まった。
”"マグロの姉" と同輩の少女”
が
<キテイ>
の練習を始めてから
少しして、
他の選手も
――いくらか
<キテイ練習>
の動作に入る様に
なった。
リンクのスペースは
さらに
狭まっていた。
それでも
"マグロの姉" は、
滑走を続けた。
同じく滑走に残る者は、
SJで四回転が出来る者だけ
だった。
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"マグロの姉" は
<キテイ>
を得意としていなかった。
それでも
<キテイ>
で振るい落とされる事も
なかった。
<キテイ>
で最高位に就ける事はないが、
”演技”
で巻き返しをする事が
出来た。
だから、
<キテイ>
にあまり練習時間を
割かないのだ。
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"マグロの姉" は
既に
《<キテイ>
では
あまり
高得点が
狙えない》
と見越して、
その日に行われる
<プログラム・クール>
そこで行う演技
その確認作業に
入っていた。
そして行う……――
「孔雀の尾」(ピーコックステイル)。
まるで
足と足の間
――扇
に、
色が在る
――拡がっている
そんな風に
見えた。
人工知能に尋ねなければ
その時に開いた股の角度を
知る事は出来ず、
<スペースリンク>
内では
人工知能へのアクセスが
不可能な状態にある為に、
その時、
正確な数字がわからなかったが、
"マグロの姉" は
スプリットをしながら、
手ごたえを
認識していた。
"マグロの姉":
《イケル!!》
"マグロの姉" の顔は
綻んでいた――
季節の訪れを知った花の様に。
とは云っても………――
<ラフレシア>
である。
大きな花弁の――けばけばしさ。
下品な斑点。
中心の――穴。




