荘厳なる少女マグロ と 運動会
そして――
"クローン":
「――もし誰かが…」
"クローン" は、
話し続けていた。
声は
――盗聴遮断装置の
――遮断領域外に行った
"マグロ" に
届かなかった。
"クローン":
《今日
君のお姉さんの演技が
うまく
行ったら……――
他の
誰かの演技が
うまく
行かなかったら………――》
"クローン" は
不必要な事を
しなかった。
"クローン" は
――"マグロ" を
――見送りきらずに
盗聴遮断装置
を仕舞った。
"クローン":
《――最悪の結末になるぅ……》
そして、
乱れた服の裾をタックし――
「Welt」
――を隠した。
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忠告は
完全では
なかった。
ただ…――結果は変わらない。
抑々、
アドバイスがあろうが
――なかろうが
結果は変わらない。
それを
"クローン" は
知っていた。
だからこそ……――
"クローン" は
"マグロ" に話しかけるという
危険を冒したのだ。
そうなのだ………――
"クローン" は
<危険>
を冒したのだ。
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"クローン" が
"マグロ" に
忠告をしても、
その日に起こるだろう
<決定的出来事>
が生じる為の
”重要なファクター”
には、
ならない。
山の斜面を転がるひとつの石が
土砂崩れを引き起こす事もあるが、
小さな石がひとつ揺れる様に転がろうとも
土砂崩れに結びつかない事もある。
寧ろ……――
結びつかない確率の方が
高い。
ひとつの小石の位置がずれただけで
すべて土砂崩れとなるなら、
山など存在しなくなるだろう。
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ビリヤードの玉は
別の玉に
己を打ちつけるまで、
ゲームを前に進める事が
ない。
キューを持った "クローン" が
ストライクしたボールは
――確かに
ナンバーを持った玉を
打たなかった。
―――――――――――――――――――――――――
ここで…――疑問。
「では
"クローン" による
<忠告>
には
意味が
あったのか?」
少なくとも――無意味ではなかった。
短絡的な人間程、
目先の利益がすぐに得られないと
現象を
――プリメチュアーに
総括して
<無意味>
と落款を押すものだ。
勿論、
その日
その時の
<忠告>
は、その日に起こる
<現象>
を変化させる程の力
を持たない。
ただ……――
未来への
大切な
<布石>
である。
世界で闘い
勝とうとする時に
必要不可欠となる
最初の
王手
である。
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"クローン" は
場に
残されていた。
そして………――無動。
その時だった。
アンスタント・テキストの
メッセージ画面が
現れた。
宙に――浮いていた。
他人には見えない――画面。
"クローン" の視界にだけ……――映る。
そして…――
テキストは
<暗号化>
されていた。
"クローン" が
何もない場所で
指を小刻みに動かすと、
プロテクトが
解けた。
そこには
文字で――
「どうだ?」
――とある。
メッセージに
送り主の名前は
明示されていなかった。
ただ……――
"クローン" は
送信者を
特定していた。
"怪人" からであった。
この時、
父親は
息子の調子を
尋ねては
いなかった。
<頼んだ事を遂行したか?>
――確認したのである。
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"クローン" は
"怪人" から
命令を
受けていた。
<"マグロ" と接触する事>。
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"クローン" は
すぐに
画面を
閉じた。
そして………――
返事をせずに、泳ぎに向かう。




