荘厳なる少女マグロ と 運動会
"マグロ" は答えなかった。
古典的小説では、
暗雲垂れこめ、
雷鳴轟く様な
<状況>
その中…
――たとえ
――外が
――曇ろうとも……
室内は
光に
満ちていた。
子供の笑い声が――した。
時計を見ると、
"マグロ" の為に設けられた
公式練習の時刻が
先程より
大幅に
近づいていた。
"マグロ":
「そろそろ
公式練習
に行かないと………」
"マグロ" は
"クローン" と話した事を
後悔していた。
時間の有効活用――その可能性。
お喋りという――無駄。
ただ――後悔しきれなかった。
どちらにしろ……――
結果は同じ。
"クローン" と話した時間を
<シュヴィメン>
に割り当てたとしても…
――"マグロ" の体調を
――鑑みれば
目立った効果は得られず、
疲労が貯えられる
だけ。
そして
<知る>
為の
第一歩
が
長引かされる
だけ。
"マグロ" が腰を浮かせると――
"クローン":
「あ!」
突然、声が上がった。
"マグロ" が――見た。
"クローン":
「伝える事がある!!」
"マグロ" は、
間を取った。
"クローン" は切り出さなかった。
服を
弄っていた。
だから――
"マグロ":
「もう行くから――」
"クローン":
「チューコク――」
"マグロ" は最初、
相手が
<外国語でも話したのか>
と思った。
ただ
すぐに
「忠告」
という単語を
思い出した。
その時。
"クローン":
「――気を付けて下さいね……」
"クローン" は
道具を
取り出した。
"マグロ" は
その正体を
知っていた――
"母親" が使っているのを
見た事が
あるから。
盗聴遮断装置。
それも
子供の玩具ではなく、
"母親" が仕事をする時に
使用している物と
極めて
よく
似ていた。
"マグロ" が
「何を?」
と尋ねる前に………――
"クローン":
「今日、
ここで
<何か悪い事>
が起こる」
推理小説の導入部分に登場する
”予告状”
の様な
暗示。
掌に
盗聴遮断装置を乗せながら、
"クローン" は続ける……――
"クローン":
「ボクの計算では――
君の周りで
”何かひどい事が起こる”。
その可能性が
すごく
高い」
"マグロ":
「何か、って…?」
当然の疑問。
対し――
"クローン":
「それはわからない」
"クローン" は
"マグロ" に
続けさせなかった……――
行かせは
しなかった。
"クローン":
「起こるまでわかりません。
ただね………――
<バタフライエフェクト>
――ってわかります?」
"クローン" は
"マグロ" に尋ねておきながら、
答えさせなかった。
"クローン":
「――知らないなら
イイです。
君程度の頭なら
知らなくて
トーゼン [当然]。
君の年じゃ
――学校じゃ
習わない
事だから――」
ひどく失礼な事を
言ったが、
"クローン" は
反省の様子を
見せなかった。
"クローン":
「世界にある
<モノとモノの結び付き>
と
<ジョーキョー [状況]>
を調べると、
後で起こるかもしれない事が
わかるんですよ。
でもね……――本当に起こるかどうかはわからない。
起きるまで…――はっきり言えない。
カクリツ [確率] でしか……――喋れない。
で、
ボクの計算では
今日、
この場所で、
<ヒドい事が起こる>
カクリツ [確率] が
高い。
すごく――高い。
それも………――君の周りで。
起きて欲しくないけど、
起きるか
起きないかは、
わからない。
だから……――気をつけて下さぃぃぃ…」
言葉尻の母音が
――"クローン" の父親がする様に……
響いた。
"マグロ" は
腹に
<差し込み>
が来た様に
思った。
螺旋の様に腹部に渦巻く………――それ。




