荘厳なる少女マグロ と 運動会
"マグロ" は<キテイ>を得意としていた。
別に好きではなかった…
――ただ
――<キテイ>種目だけは
――試合
――"マグロ" の成績に於いて
――得点が高く
――発表されていた。
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<キテイ>は、”重力ストーン”の操作技術を問う種目である――
主に”二つの段階”から、問う。
一、”重力ストーン”に乗って
どれだけ正確に
同じ場所に留まっていられるか?
二、”重力ストーン”を使って
どれだけ正確に
半円を描く事が出来るか?
ちなみに此処で云う”重力ストーン”とは
――ある特定の力が働いている磁界に於いて
浮く石の事を指す。
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※ちなみに、
四次元や
タイムトラベル、
次元移動とは何も関係がない。
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その石は
――普段
――何も外的刺激がないと……
動くことはない。
浮く事さえしない。
ただ場所の設定を
――ある一定の条件に
整えると、
同じ場所にて
――自転しながら………
浮き続ける性質を持つ。
その時、
勝手に上昇したり、
移動したりはしない。
外から力を加える事で――動き出すのだ。
ストーンをより高く
――空間内
上昇させる為には
――常に
特別な力を
――外から
掛ける必要がある。
”重力スケート”では、
選手の<足の力>が用いられる。
選手の身体の重さではない
――重さそのものはあまり関係がない。
<足で踏む>
という
”勢いの力”
を利用するのだ。
強いモメンタムを受けると
――反発するかの様に……
<力を受けた方向に向かって動き出す>
という性質を
――石は
持つ。
その特徴を使って、
選手は
空中に浮かび上がり、
滑るのだ。
ただ、
選手の<足の力>だけで
縦横、
左右、
上下
に移動する訳ではない。
”重力ストーン”に乗る競技者は
――必ず
特別な金属が裏底に入った靴を履く。
その金属が<足の力>を間接的に受けて
――メディウムとなり…
人間が
より正確にストーンを操作する事が
可能となっている。
<足の力>だけで石を動かせない事はないのだが……
――基本的には………
特別な金属の作用との<相乗効果>で、
空を滑っていると言えよう。
以上の様なストーンであるが、
人間が
それを同じ場所に
――それも空中にて……
据え続ける事は
<極めて難しい作業>
と見做されている。
勿論、
”重力ストーン”は
――何もしなければ
――ある磁場に於いて
同じ位置で浮き続ける
――極めて低いレベルで。
それは既に述べた。
ただ、
石を上昇させた後 [人が空を飛んでいる間] は
――常に
――石を踏みつける様に
上から<足を使った力>(モメンタム)を更新させないと、
ストーンは落下を始めてしまう。
だから、
そうさせない [石を落下させない] 技術を
<キテイ>種目は選手に求めているのだ。
半円を描く項目は、その延長線上にある。
即ち、
どれだけストーンを落下させず、
水平に動かしながら
より正確な半円を
――人間の力で
描けるか?
それが問われているのだ。
一度宙に浮いた後では
石に乗って
――前後左右に
滑り続ける方が簡単だ…
――人間が動く分だけ
――モメンタムは更新されるから。
そんな簡単な事は
――競技に於いて
求められていない。
<大勢には出来ない難しい事をする>――
それを選手に求めている種目が
<キテイ>
なのだ。
高度な技術を示す事で、より高い得点が与えられる
――単純な事だ。
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”重力スケート”選手の多くは、この<キテイ>種目を嫌っている。
作業が辛く、地味なのだ。
特に
選手の親や選手本人は、
競技の
<派手さ>
<華やかさ>
を好んで
”重力スケート”を始めさせたり
――始めたり
するケースが多い。
"マグロ" もそれに該当していた……
――宙に浮かんだ状態で
――”地味”に立ち続け
――”地味”に半円を幾つも描いていく
――そんな作業を
――不満に思っていた。
"マグロ":
《<キテイ>って疲れるし、格好悪い………》
ただ、"マグロ"にとって――
<キテイ>は貴重な得点源であった。
"マグロ" は
他の子よりも長く同じ地点に留まる事が出来、
他の誰よりも正確に半円を描く事が出来た。
同世代の競技選手の中では
――<キテイ>種目の得点に於いて……
"マグロ" に敵う者など、いなかった。
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ノービスの世界レベルでは
"マグロ" より
より正確な技術を持っている者がいたが、
それらはまだ
――対戦相手として
――"マグロ" の眼前に
現れてはいなかった。
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"マグロ" は
――スペースリンクの中
――横に走った
一本の青いレーザー光線を軸とし
――片足で半円を描きながら…
――端から端まで
何十往復か、
した。
終えると、汗を掻いていた。
ふと、"マグロ" は、スペースリンクの外を見た。
母親がいた。