荘厳なる少女マグロ と 運動会
それは
追いかけて
こなかった。
ただ…――
追いかけてきた。
ボディは
地点から
外れない。
ただ……――
声だけが
追っていた。
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離れた地点で………――
二本足で立つ犬は
吼えていた。
「ワン!」
――とは
吼えなかった。
「バウワウ!!」
――とも
吼えなかった。
「can!!!」
「can!!」
前足を
振り回しながら
吼えていた。
指を
動かしながら。
動きに
沿って、
犬に
集う
虫は
払われ……――
再び
戻る。
現象…――
謙虚で
控え目な
音。
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犬は
#”大勢の
<人>
と呼ばれる者”が
理解できない事#
を吼えていた。
「can!」
"マグロ" に
声は
届いていたが……――
声は、
"マグロ" に
向けられては
いなかった。
特定の
物に………
――者に……
声を掛けては
いなかった。
処構わず
吼えていた。
「U…」
牙を
剥いていた。
「Uuuuu……」
ただ
大勢には
シンプルに………――
「ゥワー!!」
――と
<解釈>
される形で
吼えていた。
「噛み付かれそうだ」
――と
”感じさせる”
大きさの……――
「can!!!」
「can!!」。
口端から
零れる
泡。
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"マグロ" に
それは…――
「そこら辺にいる
<他の犬>と
”同じ”
である」
――”様に”
見えた。
大勢が
見る
”様に”
"マグロ" は
見ていた。
ただ
"マグロ" は……――
「違う」
――気がした。
その犬を
知っている
気がした。
犬の………――
「figure」
――そのものは
見た事が
無い。
”同じ”……――
「種類」
――を
何度
見ようとも
その…――
「個体」
――を見た事が
無い。
覚えが
無い。
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衛生管理が
徹底された
時代に於いて……――
「ありえない」
――ほど
不衛生に
見える
犬。
現代社会に於いて
存在が………――
「不適切」
――な対象。
ただ……――
鳴き声を
聞いた事が
ある
”様な”
気がした。
それは、
単なる
普通名詞の
”様で”…――
「固有名詞
である」
――”様に”
”感じた”。
"マグロ" は
既視感に
囚われる。
いつの日か
”同じ”
事を
経験した
”様に”……――
”感じていた”。
それも………――
子供の頃。
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それは
間違いでは
無かった。
ただ……――
忘れていた。
具体を
思い出す事は
無かった。
自身の…――
「親」
――が……
――"マグロの父親" が………
した事を
思い出す事は
無かった。
そして
”忘れた犬”は……――
「二本足で
立っては
いなかった」
――という差異を
見出す事は
無い。
そして
”忘れた犬”と
”その犬”は…――
「”同じ”
である」
――という事に
気づく事は
無い。
「未だ」
そして
その、
<”忘れた犬”と
”同じ”
”様な”
犬>
と……
――以前に………
出会っている事を
思い出す事は
無い……――
「まだ」。
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